第31話 ハコニワへの旅立ち
朝靄に包まれた街道を、ノラとクロは並んで歩いていた。
背後には巨大な統一政府の城塞が遠ざかり、前方にはまだ見ぬ西の大地が広がっている。
「……いよいよか」
クロが小さく呟いた。
ナナシの西の地――そこはリーフラ族が長く暮らし、土地を守り続けてきた大地。
豊かな草原と綺麗な砂漠、そして“トヒ牧場”と呼ばれる場所が多く存在する。
今回の任務は、その異変の調査だった。
ノラは朝の光を浴びながら、義手を握りしめる。
「ハコニワ……この前訪れた牧場はあくまでもハコニワの端の玄関口。、実際にハコニワの中心地まで足を踏み入れるのは初めてだ」
クロは頷き、慎重な面持ちで言葉を継いだ。
「リーフラ族は誇り高く、友好的で温厚な種族だ。
だが、“トヒ家畜化”の始まりは彼らだ。……本来なら、他種族に調査を任せるはずがない」
ノラは眉をひそめた。
「……じゃあ、なぜ俺たちに?」
クロはしばらく黙り込み、やがて低く答える。
「見せたい“何か”があるのか……あるいは、俺たちが駒として試されているのかもしれない」
その言葉に、ノラの胸にざわめきが広がる。
トヒを牧場で飼う、以前見た牧場の経験を元に
この目で見れば、きっと何かを得るだろう。
「真実を知るために、俺たちは行くんだ。たとえ答えが重くても」
街道沿いには、小さな村が点在していた。
通りすがる農夫たちはリーフラ族であり、その傍らでは柵に囲まれたトヒが畑を耕していた。
黙々と土を掘り返す姿は、まるで旧時代で実在したとされ語られる“奴隷”を思わせる。
ノラは足を止め、視線を逸らさずに見つめる。
クロは隣で短く言った。
「……これが平和の“現実”だ」
沈黙の中、風が草原を渡っていく。
その先には、果てしなく広がる緑の大地――ハコニワが待っていた。
ノラとクロは再び歩き出す。
彼らの旅は、いま新たな舞台―― ハコニワへの旅立ち を迎えようとしていた。




