第30話 次なる地へ
統一政府の議事堂に、朝の鐘が鳴り響いた。
荘厳な音色が石造りの街全体に広がり、中央大陸の一日を告げていた。
ノラとクロは広間の片隅で、一枚の依頼書を受け取っていた。
政府の印章が押されたその文には、こう記されている。
――「西の地ハコニワにて、トヒの管理に異変あり。調査・報告せよ」
クロが低く呟いた。
「……トヒの管理は厳重なハズ。何故だ?ノラ、次は“西のハコニワ”だ」
ノラは依頼書を見つめ、胸の奥でざわめきを覚えた。
トヒに関する異変――それは、自分が探し続けてきた答えに直結する気がしてならなかった。
だが同時に、疑問も浮かぶ。
(……トヒの管理はリーフラ族の役割のはずだ。
なら、どうして俺たち他種族に“調査”を任せる?
本当は、外に知られたくないことなんじゃないのか……?)
義手が無意識にきしむほど強く握られた。
「……行くしかない。そこに何が待っていようと」
その時、背後から澄んだ声がかかった。
「気をつけてください、ノラさん」
振り返ると、王女ミロが立っていた。
その瞳は昨夜よりもさらに強く、まっすぐにノラを射抜いている。
「ハコニワは私の故郷。
そこであなたが目にするものは……きっと、簡単には受け入れられない真実です」
ノラは静かに頷いた。
「それでも、知るべきことなら必ず見届ける」
ミロの唇に淡い笑みが浮かんだ。
「……なら、あなたがと再会を果たした時、私も答えを出します」
クロは二人のやり取りを見つめ、深く息を吐いた。
「……ノラ。どんな真実でも、俺たちは最後まで兄さんの死を確かめる。忘れないでくれ」
ノラは義手を強く握りしめ、短く頷いた。
大広間を出ると、西の街道が朝日に照らされていた。
その光は新しい旅路を示すかのように、長く大地を伸びていく。
「さあ、行こう」
ノラとクロは並んで歩き出した。
背には過去の重みと未来の希望、そして新たな試練への覚悟が、確かに宿っていた。




