第3話 統一戦争
人類が敗北した後、星は一度、静寂を取り戻した。
しかしその沈黙は、長くは続かなかった。
進化を遂げたナチュラビストたちは、人類のように自然を破壊することはなかった。
だが、彼らもまた「生きるための矛盾」を抱えていた。
草食、肉食、雑食――。
命に対する価値観の違いは、やがて小さな衝突を生んだ。
草食族は言った。
「我らは大地の恵みだけで足りる。血に頼る必要はない」
肉食族は答えた。
「牙と爪は、この身体と共に与えられたものだ。獲物を狩ることは罪ではない」
雑食族は笑った。
「どちらの道も正しいだろう。だが腹は選り好みせぬ」
対立は次第に激しくなり、種族同士の戦は避けられなくなった。
森が揺れ、空が裂け、海が荒れる。
かつて人類が「大戦」と呼んだものが、再び星を覆った。
――だが、それは人類の戦争とは違っていた。
ナチュラビストたちは星を汚すことを嫌った。
彼らの戦いは大地を焦がさず、海を汚さず、空を煙で覆わなかった。
矛を交え、牙を剥きながらも、星そのものを壊すことはなかったのだ。
それでも争いは続いた。
一世紀にわたり繰り広げられたこの大戦は、後にこう呼ばれる。
――「統一戦争」。
星全体で地殻変動と大陸の再編が起こり、バラバラだった大地はひとつへと繋がった。
その時、ナチュラビストたちは気づいたのだ。
互いに血を流し続けても、やがて共に滅びるだけだと。
争いの末に得られた答えはただ一つ――「統一」であった。
戦を生き延びた王たちが集い、大陸中央に「統一政府」が築かれる。
そこでは各族の代表が法を定め、世界の方針を決める場が設けられた。
そして、旧人類――かつて人間と呼ばれた存在は「トヒ」と名付けられ、
厳格な管理のもと、家畜として扱われるようになった。
トヒは食料であり、愛玩であり、雑貨の素材でもあった。
だが同時に、争いを収めた「平和の象徴」としても利用されていた。
こうして「ナナシ」と呼ばれる新しい時代が始まった。
――だがこれは、ただの幕開けにすぎない。
遠い未来、この均衡が再び崩れることを――まだ誰も知らなかった。