第29話 ノラの誓い
深夜の中央都市。
高台から見渡す街の灯は、無数の星のように瞬き、遠くまで広がる文明の息吹を照らしていた。
ノラは一人、屋上に立ち尽くしていた。
冷たい風が毛並みを揺らし、義手の金属が月光を反射する。
(……シロ。お前の死の答えを、必ず見つける)
胸の奥で、燃えるような誓いが脈打っていた。
ノラは天涯孤独だった。
家族の記憶はなく、唯一の居場所は仲間たちと過ごした日々。
シロとクロ――犬族と猫族。そして血は繋がらずとも、かけがえのない兄弟だった。
「……けど、俺はもう一人じゃない」
呟きは夜空に溶けた。
孤独に押し潰されそうな時でも、必ず隣に誰かがいた。
シロが。クロが。
そして、これから出会う仲間たちが、自分の歩む道を照らすのだ。
ノラは義手を握り締め、静かに瞳を閉じた。
その指先から、確かに力が迸る感覚があった。
普通の猫族では感じられぬ、古い血が脈打つような感覚――。
(俺は、この力を“守るため”に使う)
再び目を開く。
視線の先に聳えるのは、統一政府の塔。
そこに集う各族の政治の闇も、過去の罪も、そしてトヒの真実も
すべてを暴き、この世界の在り方を変える。
「俺が背負う。シロの想いも、クロの誇りも、トヒの声も……全部」
月光に照らされたその姿は、孤独でありながらも、確かに未来へと歩む戦士のものだった。




