第26話 封印の記録
統一政府の議事堂の一角――重厚な鉄扉の奥に、保管庫があった。
長い年月を経た羊皮紙や石板、そして旧時代の遺物が静かに眠り、ひんやりとした空気が漂っている。
ノラは政府役人の案内を受け、クロと共にその中を歩いていた。
「こちらは閲覧許可のある範囲です。……余計な探りはご遠慮を」
役人は冷ややかな声を残し、石の床に足音を響かせながら去っていった。
薄暗い書架の中、ノラはふと一枚の古文書に目を留める。
黄ばんだ紙には、古代文字が刻まれていた。
――「草を食む者、長き苦痛を受けし。
角折られ、乳を搾られ、肉を削がれ、力を奪われ……」
ノラの指先が震える。
さらにページをめくると、別の記述が続いていた。
――「牙を持つ肉食の獣は、檻に閉じ込められ、自由を奪われた。
雑食の獣は、欲深きものとして嘲られ、飢えに耐える檻へ押し込められた。
翼ある鳥たちは、空を許されず、籠に閉じ込められ、羽を切られ地に繋がれた」
(……これは……旧人類が、動物たちを“徹底的に支配した”記録……)
さらに最後の一文に、ノラの胸を抉る言葉が刻まれていた。
――「その悲しみを忘れぬため、次代の人を“トヒ”と呼び、夢を与えぬように飼うべし」
「……!」
ノラの目が大きく見開かれる。
(やはり……トヒの家畜化は偶然じゃなかった。これは、意図的に“継承された仕組み”だ……)
その時、背後からクロの声がした。
「ノラ、見すぎるな。監視の目は常にある」
ノラは文書を閉じ、深く息を吐いた。
「クロ……これはリーフラ族の記録だ。
彼らは旧人類に家畜にされていた。草食も、肉食も、翼を持つ者も……皆、自由を奪われていた。
だから同じ苦しみを繰り返さぬために……トヒを家畜化したのかもしれない」
クロは眉をひそめ、沈黙した。
否定も肯定もせず、ただ冷たい瞳でノラを見据えている。
やがて、短く吐き捨てるように言った。
「……歴史の連鎖か。だが、正しいとは限らない」
「責めることはできない。……だが、この在り方が“答え”だとも思えない」
ノラの呟きは、保管庫の石壁に吸い込まれるように響いた。
その時、棚の隅に嵌め込まれた水晶が淡く光を放った。
監視用の記録装置。彼らの会話は、すべて統一政府に刻まれていた。




