第25話 不協和音
統一政府の議事堂。
その中心の円卓には、各地を治める王や代表たちが集っていた。
天井は高く、壁面にはルーン石を象った文様が刻まれている。
だが荘厳さよりも、そこに漂うのは緊張と猜疑心だった。
リーフラ族の王ブルが巨体を揺らし、低く吠えるように口を開く。
「我らは“秩序”のために犠牲を払ってきた。
トヒを管理し、平和を保った。それを揺るがす動きは許されぬ」
その言葉に、空族の使者は鋭い眼光を向けた。
「だが犠牲の上に立つ秩序は、脆いものだ。
我ら空族は、自由を縛るものを忌み嫌う」
議場がざわめく。
湖の使者が低く囁くように反論した。
「ならば、いかに均衡を保つかを議論すべきだ。
ルーン石こそ、この世界の根幹……」
沼族の使者が冷笑する。
「根幹? 笑わせないでもらいたい。沼族が虐げられた歴史を忘れさせはしないと沼王は仰っている。」
その言葉にブルの瞳が怒りに燃える。
「沼族……目的は何だ?陰で何かをして密かに動いているのか…近い未来にでも明かされるぞ」
場は一瞬にして混乱しかけた。
その最中、クロは静かに議場を見渡していた。
(司法警察が監視しているとはいえ……この政府は決して一枚岩ではない)
ノラは拳を握りしめた。
「……平和を守るはずの場所が、これじゃ……」
その呟きは小さくとも、ミロの耳には届いていた。
彼女はわずかに頷き、ノラを見つめる。
その瞳には「あなたも、この真実を見届けて」と語るような光が宿っていた。
会議の終わりを告げる鐘が鳴り響く。
だがノラとクロの胸には、平和の象徴であるはずの統一政府に
確かに「各族たちの不協和音」が響いていることを刻み込まれていた。




