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ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
終章

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200/201

第200話 ミロク-369-

北東湖で集まり笑い合って

――あれから十年。

空は青く、雲は穏やかに流れていた。

かつて「戦場」だった地には、今、笑い声が響いている。


北の国エアーでは、空族女王ティカが子どもたちに語りかけていた。

「知識は翼。けれど、それをどう使うかは心次第なの。争うより、繋がるために使いなさい。」

空の都には学び舎が並び、空を泳ぐ鯨のような雲船がゆったりと浮かんでいた。


西のハコニワでは、森を覆う緑がさらに濃くなっていた。

女王ミロは新芽を撫でながら微笑む。

「奪う民ではなく、育む民でありなさい。」

彼女の声に応えるように、リーフラ族の民たちは木々と歌い、獣たちと語り合う。


南のレプタでは、オロチが沼王として民を導いていた。

「俺は、この国を未来へ繋ぐ。それが、交わした約束だ。」

その隣には、かつての師の弟であり第二の師先王ベルルが静かに頷いていた。


東の国ヤマトでは、犬王クロと猫族女王ビャクが並んで民を見守る。

「争いのない日々って、こうも静かなんだな。」

「静けさもまた、力よ。あなたが守ってきたものが今、ここにある。」

彼らの背後では、子どもたちが竹刀を交え、笑いながら転げ回っていた。


そして――世界の中心、統一政府の塔。

その最上階に立つのは、一人の猫族。

ノラ。


彼は窓越しに広がる大地を見つめ、ゆっくりと息を吐いた。

「……結局、俺たちは何も持たなかった。でも、何も持たないからこそ、繋がれたんだな。」

背後から声がする。

「らしくないね、ノラ。」

振り返れば、ティカ、ミロ、オロチ、クロ、ビャク、そしてタロとイヴ。

皆が揃っていた。


タロが笑う。

「ノラが政府の長だなんて、今でも信じられねぇよ!」


ノラは肩をすくめる。

「俺だってそうだ。でもな……みんながいたから、ここまで来られた。」

イヴが柔らかく微笑む。

「あなたは導いたの。名もなき者たちを、希望へ。」


その時、空がふっと光り、龍が姿を現した。

かつて世界を見下ろした存在――天空の龍。

「ルーン石があろうとなかろうと、この世界は幸せに生きていける。」

その声は、静かに、優しく響き渡る。


静寂の中、ノラたちは空を見上げた。

龍の影が光に溶け、世界を包む。


“カミ”が世界を覗き込む。

「人間が旧時代に犯した罪は大きい。

 だがこの世界は、優位を求めず、欲に溺れぬ。

 ――そんな気がする。 一切衆生悉有仏性。

暫くは、安心して見守らせてもらおう。」


その夜。

ノラの部屋の机の上。

一枚の古い集合写真が額に飾られている。

写っているのは、あの戦いを生き抜いた仲間たち。

その隣には、古びた黒い円盤――レコード。

針が落ち、柔らかな旋律が流れ出す。


窓の外、夜空に星が瞬く。

ノラはその光を見つめながら呟いた。

「……ありがとう、みんな。俺たちのナナシを――これからは、“ミロク”って呼ぼう。」


そう、世界はもう“名なし”ではない。

それぞれが名を持ち、尊厳を得た。

トヒの国の王タロと女王イヴ、空の女王ティカ、森の女王ミロ、沼王オロチ、犬王クロ、猫女王ビャク。

そして統一政府長ノラ――。


彼らが築いた新たな世界の名は、「ミロク」。


すべての命が再び繋がり、笑顔が続くこの世界で、

物語は静かに――、永遠に幕を閉じた。


―すべての命に贈る詩―


……end.

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