第2話 人類の終焉
人類は、かつて星の覇者であった。
文明を築き、都市を広げ、空を裂く翼を作り、海の底にまでその手を伸ばした。
だが繁栄は、長く続かなかった。
欲望は歯止めを失い、戦争は娯楽のように消費された。
兵器は市場で競い合う商品となり、最新技術は「誰を、どれほど速く殺せるか」で評価された。
子供たちは訓練用シミュレーターで「敵を撃ち落とすこと」を遊戯のように学び、
大人たちはそれを「教育」だと誇った。
やがて戦争そのものが――ゲームの延長と化した。
国は国を喰らい、民は民を裏切り、家族でさえも互いに銃を向けた。
資源は奪い合われ、環境は破壊され、かつて青く輝いていた星は濁った灰色の覆いに閉ざされていった。
それでも人類は気づかなかった。
いや――気づいても、目を背けた。
その時、静かに訪れたのが“異変”だった。
山々の木々は伸びすぎ、根は都市を押し上げ、道路を割った。
虫たちは巨大化し、空を埋め尽くす群れとなった。
魚は膨張し、網を破り、港を沈めた。
最初は災害と呼ばれた。
しかし、それは「カミ」に選ばれた生物たちの進化の兆しにすぎなかった。
やがて彼らは、人の形を帯び始めた。
羽を広げた鳥は空を舞い、獣は二足で歩き、魚すらも陸に上がり、人の言葉を話した。
それは祝福だったのか。
それとも罰だったのか。
誰にも答えは出せなかった。
進化した彼ら――ナチュラビストは、人類と同じ知性を与えられていた。
そして彼らは、争いを望まなかった。
人と共に生きることを願い、共存の道を模索した。
しかし――。
人間たちは彼らを拒絶した。
「化け物」「悪魔」「侵略者」……そう呼び、銃を向けた。
共存の願いは踏みにじられ、やがて戦争が始まった。
ナチュラビストは自然と繋がり、森も海も大地も味方につけた。
対する人類は、兵器と数と傲慢さに縋った。
だが結果は――圧倒的だった。
百年に及ぶ戦いの末、人類は完全に敗北した。
都市は廃墟となり、文明は崩れ去り、かつての支配者は影も形もなく消え去った。
残されたのは、ナチュラビストたち。
彼らの手により、この星は新たな時代を迎えることとなった。
――それが、「ナナシの時代」の始まりであった。