第198話 未来へ
春の風が大地を渡り、芽吹く木々が命の鼓動を謳っていた。
戦火の匂いはもうなく、そこには“再生”の息吹があった。
かつて共に戦った仲間たちは、それぞれの道を歩み始めていた。
――北の国空の都エアー。
青く澄んだ空の下、様々な翼の群れが優雅に舞う。
ティカは新たに建てられた教育院の前に立ち、子どもたちを見つめていた。
「文武両道。力は争うためにあるんじゃない。
“絆”を守るためにあるの。」
彼女の声は穏やかで、それでいて芯があった。
ヤマト無双流の学びを継ぎ、戦いの教えを“平和の道”へと変えたティカ。
子どもたちは笑顔で頷き、空へ向けて翼を広げた。
――西の国草原のハコニワ。
陽光が差し込む緑の海の中、ミロは木々の声に耳を澄ませていた。
彼女の周囲には、森と共に生きる民たちが集まっている。
「命は奪うものではなく、育むもの。
この森も、私たちも、同じ命の輪の中にあるのです。」
そう語るミロの手には、新芽を抱いた小さな苗木。
その笑顔には、森と共に歩む者としての誇りが宿っていた。
――そしてハコニワの郊外。
タロとイヴは広い平原の真ん中で、エアーにて過ごしていた言葉を話す同胞達と新しい集落を築いていた。
粗削りな木造の家々、笑い声を響かせる子どもたち。
その全てが、彼らの“自由の証”だった。
「イヴ、ようやくここまで来たね。」
タロが汗をぬぐいながら笑う。
「うん。まだ国とは呼べないけど、ここが“私たちの始まり”だね。」
イヴが微笑み、二人の手が触れ合う。
タロは空を見上げ、静かに呟いた。
「僕たちはもう、誰にも奪われない。この空も、この地も、みんなのものだ。」
――南の国レプタの湿地。
再び緑を取り戻した大地で、オロチは沼王ベルルの隣に立っていた。
彼の目には、もはや迷いも恐れもない。
「俺はもう逃げない。この国を……未来へ繋ぐ。」
その言葉にベルルは笑みを返し、肩を並べた。
「頼もしいじゃないか、オロチ。レプタの再興は、お前なしでは語れないよ。」
泥と風が混じる匂いの中、オロチは空を仰ぎ、
亡き父とベルの魂に誓うように拳を握った。
――そして、東の国ヤマトのとある花咲く丘。
ひとりの猫族の青年が、風に吹かれて立っていた。
ノラ。
その瞳には、戦いの記憶ではなく、“今”を生きる仲間たちの姿が映っている。
「……みんな、それぞれの未来を掴んでいくんだな。」
彼は呟き、目を細める。
すると、柔らかな足音が背後から近づいた。
「あなたもよ、ノラ。あなたの未来も。」
振り向けば、ビャクが微笑んで立っていた。
風に白い髪がなびき、月光を受けて淡く光る。
ノラは少し照れたように笑い、空を見上げる。
「未来か……。俺にそんなものがあるのか、まだ分からないけど――
でも、みんなが笑って生きるこの世界なら、悪くないな。」
ビャクはノラの手を取り、静かに頷いた。
「あなたが歩く限り、それもきっと“希望”になるわ。」
二人の影が重なり、風が優しく吹き抜ける。
遠くでナニかの鳴き声が響いた。
それはまるで、すべての種族に向けた“祝福”のようだった。
ノラはその声に微笑みを返す。
「……行こう。未来へ。」
白い雲が流れ、陽光が丘を包む。
花々がそよぎ、世界が静かに微笑んでいた。
こうして、戦いの時代を超えた者たちは――
それぞれの夢と共に、新しい世界へ歩き出し
丘の下で花々が風に揺れ、まるで世界が微笑んでいるようだった。




