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ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
終章

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197/201

第197話 家族の再会

北東湖――。


風が穏やかに波を撫で、鏡のような湖面が夕焼けを映していた。

長い戦いを終えたクロとチロは、ひとつの約束を果たすため、この地を訪れていた。


「……ここが、シロ兄の守る湖なんだね。」

チロの瞳に、どこか懐かしい光が宿る。


クロは頷き、湖の向こうに沈みゆく太陽を見つめた。

「うん。ようやく会えるなチロ。ずっと、ずっと待ってた兄さんに。」


湖畔の前で、クロは湖に向かいマナスに声をかける。

「マナス様!クロです!兄のシロに会いに来ました。」


湖の女王マナスが現れ軽く目を見開くと、微笑んで頷いた。

「シロ様にはお伝えします。――きっと、喜ばれますよ。」

陽の赤を背に白い毛並みが揺れた。

湖のほとりに、静かに一人の犬族が現れる。

それは、長い間チロが帰りを待っていた兄――シロ。


「シロ兄……!」

チロの声が震える。


シロは微笑み、ゆっくりと歩み寄り、その視線がチロに向いた瞬間、シロの目が柔らかく細まる。

「……チロ。ずっと会いたかったよ。こんな美人さんになって……会えて兄ちゃんは嬉しいよ。会いに来てくれてありがとう。」


その言葉を聞いた途端、チロは堪えきれず兄の胸に飛び込んだ。

「シロ兄っ……ずっと……会いたかったよぉ……!」


シロは優しくチロの背を撫で、子どもの頃のように抱きしめた。

「長い間お留守番ありがとうね。……辛くさせてごめん。でも、もう大丈夫だよ。家には帰れないけど、ここ(北東湖)でならいつでも会えるからさっ。」


その光景を見つめながら、クロは静かに月を仰いだ。


湖面に映る月は揺らぎ、まるで彼らの再会を祝福しているようだった。


夜が訪れ、焚き火が湖畔に灯る。

三人はその炎を囲みながら、久しぶりの団欒を楽しんでいた。


「チロは今、どんな暮らしをしているんだい?」

シロが尋ねると、チロは嬉しそうに語り出す。


「今は統一政府の紹介所で働いてるの。いろんな種族の人に会えるし、みんなの助けになるし笑顔が見れるから毎日が新しいの!」

その声には、幼い頃に戻ったような無邪気さが宿っていた。


シロは目を細め、うんうんと頷く。

「そうか……。立派になったんだね。子供の頃はクロにイジられてすぐシバに泣きながら助け求めてたのに。」


「もう、やめてよ兄さん。子どもの頃の話はっ……!」

そう言って笑うチロの頬には、涙が光っていた。


焚き火の火が弾け、夜風が優しく吹き抜ける。

クロは少し真剣な顔で、兄を見た。


「兄さん。俺……犬族の王を目指そうと思う。」


「え!クロ兄が!?」

チロは驚く


シロは優しくクロに聞いた。

「……クロ、本気かい?」


チロも驚いた。

クロは静かに頷く。

「この旅でたくさんのことを見て、知ったんだ。

 俺の夢は……この国を、この世界を、この命をかけてでも守ることだって。」


シロの瞳に、誇らしげな光が宿る。

「……本当に成長したね、クロ。もう小さかった頃のヤンチャなクロじゃないね。

 僕もこの北東湖から、クロを支えるよ。もちろんチロもね。」


クロは微笑み、兄と拳を軽く合わせた。

その音が小さく響き、湖面に波紋を描く。


チロは二人を見つめながら、そっと手を合わせるように祈った。

「これからは、ずっと一緒に笑っていようね……。」


その後ろでは、マナスと龍が静かに見守っていた。

彼らの表情にも、どこか安堵の色が浮かんでいる。


――その夜。

北東湖には、久しぶりに“家族の笑い声”が響いた。


湖に映る三つの影は、まるで時を越えた絆の証のように寄り添い、

月明かりの中でいつまでも消えなかった――。

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