第192話 命を賭けて
マナスとトールがルーン石を手に取り、統一政府の広場に集まった。
戦場の地鳴りはなお止まず、恐竜たちの咆哮が耳をつんざく。
「このままでは……被害は最悪を迎える。恐竜たちを化石に戻すしかない。」
トールがルーン石に手をかざし、願いを込めようとする。
「待ってください!」
オロチが突如、ルーン石を奪った。
「……オロチ?どうしたのだ…?」
トールとその場の全員が驚き、手を止める。
「トール様……ごめんなさい!」
オロチの声は静かだが、揺るがぬ決意が宿っていた。
「でも……父様の過ち、そして沼族の過ちは、僕が拭いたいんだ!」
「貴方まで……!」
マナスが声を上げるが、オロチは振り返らず、ルーン石に手を置く。
「僕が……僕がこの力を使う。誰も犠牲にしないために……!」
彼の手がルーン石に触れると、淡い光が広がった。
オロチは目を閉じ、心の中で父と沼族、そして恐竜たちの命に誓った。
「ベルとノラ達とも約束したんだ…!どうか……僕の願いを叶えてルーン石。」
祈りと覚悟がルーン石に宿る。
「まさか、沼王の息子が…。」
犬王チャピは唖然とする。
光が戦場を包み、恐竜たちの巨体に走る。
恐竜たちが咆哮し、体が硬化していく。
牙も爪も背の帆も、ゆっくりと石に変わる。
「無事で居てくれ……!」
クロが息を呑む。
「オロチ………」
ノラが震える手で、オロチの肩を掴む。
ミロが吠えた。
「死なないで……オロチ……!」
だが、その瞬間、オロチの体は光に包まれ、ゆっくりと地に崩れ落ちた。
「オロチ…!」
イヴが掠れた声でタロと共に駆け寄る。
「しっかりしろ……オロチ!レプタで僕らを助けてくれたじゃないか…」
しかし、オロチは微笑むように目を閉じ、力を使い果たしていた。
「これでレプタは……沼族も平和の道を……」
小さな声が消え、彼の存在は戦場から消えた。
「まさかナーガの息子が…」
リーフラ族王ブルと空王イーガは
声を揃えた。
猫王ライガと犬王チャピも、まだ若い沼族が身を挺して世界を救ったことに
感謝と追悼の念を心に刻む。
各湖王たちも、仲間たちも、深い喪失に胸を締めつけられる。
「彼……自らを犠牲にして……!」
ティカは瞳を閉じ、静かに息をつく。
「沼族の王が……オロチだったら……」
クロが涙を流し、タロとイヴも震える声で彼の名を呼んだ。
戦場は、静かだ。
だが、恐竜たちは石となり、ナチュラビストたちの命は守られた。
オロチの犠牲が、この混沌を終わらせたのだ――。
「俺がやるべきだったのに……。俺はお前を忘れない……!」
ボロボロのノラが拳を握り、震える声で誓う。」
各族王たちと、各族の兵たちの瞳にはオロチの覚悟が深く刻まれていた。
そして静寂の中、戦場の上空に微かな光が差す。
それは、オロチの身を捧げても願った平和への意思が導いた希望の光だった――。




