第184話 オロチの告白
第議事堂の会議が終わり、夜の風が張りつめた空気を運んでいた。
ノラたちが外へ出ようとしたその時、
城門の方から、荒い息と共にひとりの少年が駆けてきた。
「ノラさんっ──!」
その声に振り返ったミロが息を呑む。
「オロチ……!?」
続いてタロも目を見開いた。
「本当に……来たのか!」
クロが警戒して前に出るが、タロがすぐに制した。
「クロ! この人は敵じゃない! 僕たちを牢で守ってくれたんだ!」
クロは眉をひそめたまま腕を組み、ノラを見る。
「どうする、ノラ。」
ノラは頷き、静かにオロチへと視線を向けた。
「……話してくれ。何があった。」
オロチは深く息を吸い、拳を握りしめた。
その目には恐怖と決意、そして悲しみが入り混じっている。
「ベルが……僕を庇って、死にました。」
一瞬にして、空気が止まった。
焚き火のはぜる音だけが、やけに遠く聞こえる。
「なんだと……?」
ノラの声が低く響く。
オロチは唇を震わせ、絞り出すように言葉を続けた。
「ここに向かう最中に
コドラが僕を捕まえて恐竜から逃げる為の囮にしようとしました。そして
ベルが助けてくれたんです。
そして近くにいた恐竜が襲いかかり……。
ベルも、コドラも……そのまま……。」
ミロが口元を押さえ、ティカが目を伏せる。
タロは小さく呟いた。
「そんな……ベルさんが……。」
オロチは拳を握りしめ、地面を見つめた。
「ベルは、僕に最後まで言いました。
“世界は壊すためにあるんじゃない、救うためにあるんだ”って。
僕は、父様の罪を背負ってでも……この世界を守りたい。」
ノラがゆっくりと近づく。
「……父を憎んでいるのか。」
「いいえ。」
オロチは首を振る。
「父様は間違えた。でも、憎めません。
だからこそ、僕はその過ちを正したい。
ベルが信じた“平和”を、僕が継ぎます。」
タロが涙をこぼしながら笑った。
「オロチ……あの時の言葉、忘れてなかったんだね。」
イヴも優しく微笑む。
「“痛い思いはさせない”って言ってくれた。あれ、本気だったんですね。」
クロが深く息を吐き、腕を組んだまま頷いた。
「……なら、疑う理由はない。あのベルの弟子だ。信じる。」
ミロが一歩前に出て、オロチの手を握る。
「もうひとりじゃないよ。これからは、私たちもいる。」
ティカが空を見上げた。
雲の切れ間から、月光が差し込む。
「あなたの師は……きっと見てる。あなたがちゃんと前に進んでるって。」
ノラは静かに歩み寄り、オロチの肩に手を置いた。
「ベルの名を継ぐなら、覚悟がいるぞ。
あいつの想いは、生半可なものじゃない。」
オロチは真っ直ぐにノラを見つめた。
「覚悟なら……もう、できてます。」
ノラは一瞬目を細め、そして微笑んだ。
「決まりだな。オロチ。これから、ナナシの世界を一緒に救うぞ。」
その言葉に、オロチの瞳から静かに涙がこぼれた。
「……ありがとうございます。
ベルの信じた世界を、今度は僕も守る!」
遠くで雷鳴が響く。
それは、世界が再び動き出す音のようだった。
だが、ノラたちの間には確かな絆の火が灯っていた。




