表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
14章 レプタ(2)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

182/201

第182話 信じる悲しさ

南東湖にたどり着いたオロチの背には、ひときわ重い鎌があった。

それは、師であり親のように慕ったベルの遺した大鎌。


湖面は穏やかで、ただ風だけが静かに草を揺らしている。


すでにノラたちはこの地を訪れており、湖王トールは彼らから

――恐竜が甦ったこと。

――そして、ナーガが命を落としたこと。

を聞いていたようだ。


ベルルの姿が見当たらなかったが

ベルルは、従者たちを率いて他の湖王のもとへ急ぎ、世界の危機を告げる使者として動いているという。


「……その鎌は、ベルのものだな。」

トールが低くつぶやくと、オロチはただ頷いた。


湖王の眼差しに宿るものを見て、オロチは語り始めた。


彼は静かに語った。


南の国レプタでの日々。

王であり父であったナーガ。

冷徹で聡明な側近コドラ。

そして、己に剣を教え、心を導いてくれた師ベルの生き様と、その最期。


語り終えた時、オロチの声は震えていた。

「俺は、何を信じていいのか……もう分からないんです。」


トールはゆっくりと立ち上がり、オロチの肩に手を置いた。


その掌には長い時を生きた者の静かな温もりがあった。


「オロチ……悲しみは、信じた証だ。ナーガも、コドラも、ベルも形は違えどお前を信じていた。だからこそ、その信を途切れさせてはならぬ。」


そう言って、トールは遠く湖面を見つめた。

彼の瞳の奥に映っていたのは、まだ若く、理想に燃えていた頃のナーガたちの姿。

王になる前、心優しき青年だったナーガ。

常に己を磨き上げてたコドラ。

そんな二人を支えるベル。

歪みながらも道を選び進んでいった三人の姿。


「彼らは皆、信じた。清きものを、未来を、そして互いを……」

トールは微笑んだが、その頬には一筋の涙が流れた。

「だが、信じる心が強い者ほど、悲しみに呑まれやすい。それでも――信じ続ける者こそ、希望の証となる。」


オロチは拳を握り、ベルの鎌を強く抱き締めた。

「ベル……俺は、想いを継ぎます。必ず。この世界の平和を…。沼族の誇りを…!!」


夜、湖辺の篝火がオロチの影を揺らす。

トールは祈るように目を閉じ、静かに名を呼んだ。

「ナーガ、コドラ、ベル…どうかオロチを導いてくれ。」


その声は風に溶け、湖の奥深くへと消えていった。


翌朝、オロチは再び北側に進む。

向かうは東の国ヤマト

――ノラたちが居る国。


その背を見送りながら、トールは低く呟いた。

「信じることは、悲しい。けれど、その悲しさがある限り、人はまだ、光を求められるのだ。」


湖の風が吹き抜け、オロチの影が遠く霞んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ