第179話 混乱の渦
祭壇の周囲に、復活した恐竜たちの低く唸る声が響く。
ベルとオロチは、倒れかけた柱の陰からその光景を見つめ、言葉を失った。
「……これはまずい……」
ベルの声が震える。
「……父様……」
オロチも目を見開き、手で口を覆った。
「……我らの祖よ……我らが受けた屈辱を今……!」
ナーガは復活した恐竜の群れに近づき、尾を振りながら声高に語る。
「他族に笑われ、辱められた我々。今、祖先の力で世界を掌握するのだ。我らが先祖よ、我が思いを聞け!」
恐竜たちは一斉に頭を下げ、ナーガの言葉に耳を傾けているかのように見えた。
その瞬間、ナーガは高らかに笑った。
「ふははは!これで我が王国の礎は完璧だ!他族は今、沼族の支配に服するのだ!」
しかし、次の瞬間だった。巨大なティラノサウルスの影がナーガを覆い、その口が開く。
「……な、なに……?」
ナーガの声は叫びに変わる。
恐竜は、思わぬ本能に従い、ナーガを食べた。
祭壇にいた全員が固まる。
「……ちょ、ちょっと待て……!」
コドラの声が震える。
「ナーガ様!? まさか……!」密教徒たちの叫びが飛び交う。
オロチはベルに向かって叫ぶ。
「ベル…父様が……!」
「オロチ!ダメだ、逃げるぞ!」
ベルはオロチの背後に従い、出口に向かう。
コドラとスガイズ、そして兵士達が唖然とした隙に、ミロとティカが目を合わせ鎖に繋がれたままコドラとスガイズを振り解きタロとイヴを解放する。
「ノラ、クロ!早く……まずはこの場から離れましょう!」
「ナイス、ミロ!ティカ!」
ノラとクロは四人の下へ駆け出す。
二人は絡められた鎖を引き裂き、四人を救出。
「みんなこっちだ!」
クロが叫ぶ。
「う、うん!」
イヴは涙を拭い、タロも必死に頷く。
ノラは全員の安全を確認すると、拳を握りしめて叫ぶ。
「全員無事か?よし、逃げるぞ!」
クロも背後でうなずく。
「行くぞ……今度こそ、取り戻す!」
密教徒たちは恐竜の暴走を前に、逃げ惑う。
「やめろ、呪文を……!」「制御が……効かない!」
誰もが震え、恐怖に圧倒されていた。
ベルはオロチに声をかける。
「オロチ、間違ったルーン石の使い方の結果だ。奴らの言葉は通じない……今は生き延びるのが先決だ」
「ベル……父様が……」
オロチは父を失った悲しみと恐竜への恐怖に震えつつも、ベルの後を追う。
ノラたちは、遺跡群に蔓延る恐竜たちと密教徒たちの混乱の中で脱出路を探しながらも、決意を新たにした。
「……くそ……俺たち、まだやらなくてはいけない!」
ティカも力強く頷く。
「そうよ……まだ終わらせない!」
祭壇の奥では、復活した恐竜たちが暴れ狂い、制御不能の力が渦巻く。
その光景に、逃げ惑う密教徒たち、呆然とするコドラとスガイズ。
その場から逃げるベルとオロチ、そして決意を固めるノラたち。
すべてが混乱の渦の中に巻き込まれていった。




