第178話 復活の儀
祭壇の上で、黒曜石の導き盤が赤黒く光り、呪文のような低い声が空間を震わせる。
密教徒たちの声が重なり合い、古代文字の模様が空中に浮かび上がる。
「始まってしまった……」
クロの息が詰まる。
ノラは拳を握り、視線を祭壇の骨に釘付けた。
巨大な骨たちが微かに震え、軋むような音を立て始める。
「骨……動いてる!?」
ティカの声が思わず裏返った。
「まさか……これが……」ミロも小さく息を漏らす。
しかし、ノラの瞳は怒りに燃えていた。
「違う!龍が教えてくれた方法と全然違う…!ナーガ今すぐ辞めろ!」
その声に、沼王ナーガが薄く笑う。
「ふふふ……我らのやり方こそ、レプタの遺跡群に刻まれし古代の教の正道だ。お前達の言う正しさなど、必要ない。」
尾を地面に這わせながら、黒曜石の光をさらに強める。
「やめろ……このままじゃ、ただの暴走だ!」
ノラは一歩前に出る。
クロが制止する。
「無理だ、ノラ。今は……四人を守ることが最優先だ。」
その言葉と同時に、骨の隙間から筋肉の影が浮かび上がり、化石のように硬かった骨格が肉体を取り戻す。
「これは……!」
ティカが思わず後ずさる。
「止まれ……!」
ノラは必死に叫ぶが、密教の呪文の力は強大で、動きを止められない。
骨から肉が形成され、巨大な覇者達が形を帯び始める。
不完全ながらも、巨大な骨だったものは、祭壇の周囲で動き出す。
「生きかえってる……本当に……!」
ミロは震えながらも恐怖と驚愕で目を見開く。
沼王ナーガは歓喜の声を上げた。
「ふはははは! これぞ念願のルーン石の力だ! 骨に命を宿す儀式、恐竜達の復活だ!」
側近のコドラも拳を握り、唸り声を上げる。
「よくぞここまで集めた、ナーガ! これで我らの支配の礎が揃った!」
密教徒たちも興奮の声を上げ、円陣の中で手を掲げ、古代文字がさらに祭壇を覆う。
「恐竜よ……我が命に応えよ!」
ナーガの声が響くと、復活した巨大な生物たちは次第に完全に蘇り咆哮し、地鳴りのような振動が祭壇を揺らした。
ノラは拳を固め、悔しさで歯を食いしばる。
「……くそ……俺たち、何もできないのか……」
クロが横で静かに言った。
「今はまだ、だ。だが、この怒りは……必ず道を開く。」
ティカとミロは背後で震えながらも、ノラとクロの意志を感じ取り、希望の光を失わずにいる。
祭壇の上で、黒曜石が赤く光り、恐竜たちは完全に肉体を持って動き出す。
「ふふ……夢追い人たちよ。我らが祖先。恐竜の力を思い知り絶望しろ!」
ナーガの目が黄金に輝き、狂気の喜びが顔全体に広がる。
その背後で、コドラと密教徒たちも歓喜の声を上げ、祭壇の周囲は復活した恐竜たちの咆哮とともに、恐怖と圧倒的な力に満ちた空間となった。
ノラたちは息を呑み、拳を握り直す。
「……、俺たちは屈しない……皆も平和も取り戻す!」
ノラの決意が、雷鳴のように心の中で轟いた。
こうして、禁忌の“恐竜復活の儀”は完成に向かって動き始めた。




