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ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
14章 レプタ(2)

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175/201

第175話 湿地に響く希望

湿った風が木々を揺らし、南東湖の湖面が細かく波打っていた。

ベルルの背を追い、ノラ、クロ、ミロ、ティカは一列になって沼道を進んでいた。

夜明け前の空は重く、どこかで水鳥の羽音が響く。

彼らの足元では泥が静かに泡を立て、レプタへ近づくにつれ、空気の質そのものが変わっていくのを全員が感じていた。


ミロは小さく息を飲んだ。

「これが……レプタに通じる道……。」

ティカも頷きながら、周囲のぬかるみに視線を走らせる。

「空気が、重い……。まるで何かが、見てるみたい。」


ノラとクロは前を行くベルルの歩幅に合わせながら、互いに目を交わした。

彼らにとっては二度目の道――

だが、あの時よりも何倍も緊張が濃い。

今回は、仲間を救うための帰還だ。


「ベルル、あの時よりも道が狭くなっていないか?」

クロが呟くと、ベルルは淡く笑みを浮かべる。

「沼は生きている。進む者の覚悟を量るように、道を変えるんだ。」

その声には静かな重みがあった。


同じ頃、レプタの地下牢。


ひんやりとした石壁の奥で、タロとイヴは互いの背中を合わせて座っていた。

わずかな光が天井の割れ目から差し込み、彼らの影を長く引き伸ばす。

その静寂を破るように、鉄扉の軋む音が響いた。


「おい、起きてるか。」

現れたのはコドラとスガイズ。

二人の足音は湿った床を叩き、金属の鎖が微かに鳴った。


「……何の用だ。」タロが低く唸る。

スガイズは笑いながら鉄格子を指で弾いた。

「何の用って?暇つぶしさ。退屈なんだよ、あの連中がここに来るまではな。」


「ノラたちが……来る?」

イヴが小さく反応する。


コドラはにやりと笑った。

「ああ、そうさ。もうすぐここに着く。だが安心しろ――お前らが会う頃には、奴らは立っていられねぇかもな。」


イヴの瞳が一瞬だけ鋭く光る。

タロは静かに立ち上がり、鉄格子越しに彼を睨んだ。

「何を言われても関係ないよ。ノラたちは来る。僕たちは、みんなを信じてる。」


その確信に満ちた声に、コドラの眉がわずかに歪んだ。

「……ほう。まだそんな目ができるか。」

その瞳――どんな絶望にも屈しない光。

それが腹立たしくて、コドラは舌打ちした。


ガンッ――

鉄格子を蹴り飛ばし、錆びた鉄の音が牢の奥まで響き渡る。

「見てろ……今に笑えなくしてやる。」

スガイズも薄気味悪い笑みを浮かべ、

「絶望ってのはな、後から静かに染みてくるんだ。」

と囁き、二人はそのまま地下牢を後にした。


残されたのは、滴る水音と、かすかな呼吸だけ。

タロは目を閉じ、イヴの肩にそっと手を置いた。

「信じよう。みんなは必ず来てくれる。」

「……そうだね。」

イヴの声は揺るがなかった。


――そして、夜が明け始めた頃。


レプタの遺跡群が靄の向こうに姿を現した。

ノラたちは沼道を抜け、湿地の入り口に立っていた。

空気がぴんと張り詰め、見えない何かの気配が全身を撫でていく。


「……感じるか?」

クロが呟く。

ノラは頷いた。

「監視の気配だ。……ここからは俺たちだけで行こう。」


ベルルは立ち止まり、ノラたちを見渡す。

「ここから先は、沼王の支配が強い場所。気を抜くな。」


ノラは振り返り、静かに言った。

「前にもここを案内してくれたからね。もう大丈夫だ。ここまでありがとう、ベルル。」


ベルルは少しの間、ノラを見つめ、それから穏やかに微笑んだ。

「……兄ベルと、オロチのことを頼みます。

二人はこの世界の均衡を守ろうとしている。ノラたちのように。」


ノラたちは深く頷いた。

その瞬間、風が沼の底から吹き上がり、水面に細かな波紋を描いた。

ベルルはその中へ身を滑らせ、静かに南東湖の方角へと帰っていった。


沼の呼吸が静まり返り、空気の中に残るのは、わずかな水音だけ。

ノラたちは息を整え、

「行こう。二人が待ってる。」

というノラの声に導かれるように、レプタへと足を踏み入れた。

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