第174話 平和的願い
ノラたちは南東湖へと辿り着いた。
湖のほとりに立つと、穏やかな水面が月明かりに照らされ、ゆらゆらと光を反射している。
ミロとティカにとっては初めて訪れた場所だが、湖の静けさに少し緊張をほぐされる。
ノラとクロは以前、タロとイヴを連れてここを訪れ湖の深い静けさを肌で覚えていたため、安心感と懐かしさを同時に感じていた。
湖の中央で、大きな波紋が広がり、やがて水面から南東湖の湖王、巨大な大亀トールがゆっくりと姿を現した。
湖のほとりにはベルルも立っており、その穏やかな表情からは敵意が一切感じられない。
ノラは自然と頭を下げ、
「トール様のおかげで義手の意味。そして、古代種の血筋であることに気づけました。ありがとうございます。」
以前の義手と血筋についてのキッカケの言葉を与えてくれたトールに感謝の気持ちを込める。
クロも同様に目を細め、静かに礼をした。
ミロとティカは初めて目にする湖王の姿に息を呑む。
トールの圧倒的な存在感に、一瞬足がすくむが、ベルルの穏やかな笑みが緊張を和らげる。
ノラが口を開く。
「トール様、ベルル。今回もお世話になります。」
トールは深く頷き
「ノラ、クロ、そして新たに来た者たちよ、ようこそ南東湖へ。無事で何よりだ。」
クロが少し前に出て、湖を見つめながら訊ねる。
「タロとイヴは、この湖を通りましたか?」
すると、ベルルは静かにうなずき
「タロとイヴは無事みたいだ。我々が兄ベルから預かった伝言によると、レプタの地下牢に囚われているが、兄と沼王ナーガの息子オロチは、密教の恐竜復活計画に反対している。平和的に生き、他族とも友好的に世界を共に生きていこうと願っているとのことだ。」
ノラはその言葉に息を呑む。
地下牢に囚われている仲間たちの無事を知り、胸の奥で少し安心すると同時に、オロチとベルの計画に希望を見出す。
クロも深く頷き
「ベルたちが、レプタの中から計画を止めようとしてるとは…。」
トールは
「ベルはノラたちがレプタに向かうには、この湖を経由することになるだろう。南東湖を通る事が最短ルートでもある為必ず寄るはず。
そして、レプタの遺跡群には恐竜の伝承が残されている。そして、密教が復活させようとしている恐竜の力は、世界を混乱に陥れる危険がある。そう伝えて欲しいとベルからの伝言を預かっておったのだ」
ノラとクロは背筋を伸ばし、真剣な表情で聞き入る。
ミロとティカは拳を固く握る。
ノラは深く息をつき、湖面に反射する月光を見つめる。
以前トールから貰った言葉を思い出し、仲間たちを信じ、オロチやベルの行動を信じる気持ちがさらに強まる。
クロも隣で同じ気持ちを抱いていた。
ミロとティカにとっても、南東湖はただの湖ではない。
初めて訪れたが、ここには信頼できる者たちがおり、世界を平和に導くための希望があった。
ノラたちは湖王トールとベルルに感謝を伝え、再びレプタへと向かう覚悟を固めるのだった。




