第173話 オロチ
地下牢の湿った空気が、タロとイヴの肌を冷たく包み込む中、鉄格子の向こうに小さな影が忍び寄った。
タロは目を大きく見開き、少し身を乗り出す。
「あ、あの人……?」
イヴも眉をひそめて警戒する。
オロチだ。そして沼王側近のベル。
オロチはまだ、幼さの残る体躯だが鉄格子の前に堂々と立つ。
目を丸くし、拳をぎゅっと握る。
「ほんとに捕まっちゃったんだね……」
声は震えていたが、どこか決意も混ざっている。
タロとイヴは警戒しながらも、その声に少し安心する。
オロチは俯き、震える声でつぶやいた。
「でも、父様とコドラが企んでること……これは、世界にとって危険だ……!」
タロが勇気を振り絞って言う。
「君とベルさんは、沼族なのに何か違うね…。でも、僕たちを絶対助けに来てくれるから……ノラたちが!」
オロチは少し顔を上げ、タロの言葉に目を輝かせる。
「……そうだね。俺も、絶対に諦めない……! たとえ今は無力でも、二人を父様たちから必ず守るよ……痛い思いはさせない。」
イヴは静かにうなずき、タロの手を握りながらもオロチに視線を向ける。
「ありがとうございます……信じます。」
ベルは小さく息をつき
「君たちは大丈夫だ。ノラたちが来るまで……私とオロチが必ず守る。絶対に傷つけさせはしない。」
沼王ナーガと側近コドラは密教徒たちと神殿にて儀式の準備に励んでいた。
地下牢では、看守が冷徹な目で二人を見張っている。
オロチは一瞬、看守の目を気にして顔を強張らせるが
すぐに少年らしい決意を取り戻す。
「父様……間違っていても、俺は見捨てない……でも、間違いは正さなきゃ……。」
オロチはベルと共に牢を後にした。
ベルは伝言を預け従者を南東湖に走らせる。
「タロとイヴは無事だ。我々はレプタ内部から、王やコドラの危険な計画を止めるつもりだ。」
従者に伝え、確実に師トールとベルルに届けさせる為。
ベルは冷静に状況を分析する。
「ノラたちは南東湖を通るだろう。北東湖経由でも最短ルートだ。」
オロチは小さくうなずき、拳を握る。
幼き大蛇はまだ力不足を自覚していたが、希望を信じ、行動を起こす。
父への愛、間違いを正す決意、そして世界を平和に変えたい思い。
月光に照らされたオロチの瞳は決意の炎で輝いた。
「絶対に、世界を変える。俺が無力でも……皆の力で、必ず……。」
地下牢に残されたタロとイヴは、オロチの言葉と少年らしい優しさを胸に、希望を失わず耐え続ける。
そして南東湖では、ベルの従者が到着し湖王である亀王トールとベルル二人にこれから来るノラたちへ伝えて欲しいと、ベルから預かった伝言を伝えた。




