第172話 人質のタロとイヴ
深い霧に包まれたレプタの本拠地。
湿った空気が肌にまとわりつき、地下へ続く階段から冷たい風が吹き上がる。
タロとイヴは手を縛られ、腰を折りながら歩かされていた。
タロの目にはまだ元気な光が残るが、囚われの身であることに心の奥では不安が渦巻いていた。
「う……でも、僕たち、必ず戻れるよね……ノラたちが……」
タロは小さくつぶやき、手首を握りしめる。
イヴは落ち着いた声で応じる。
「大丈夫よ、タロ。怖がることはない。私たちの力ではなく、信じる心を失わなければ……きっと助けてくれるわ。」
二人は地下牢に押し込まれると、重い鉄の扉が冷たい音を立てて閉まった。
辺りは完全な闇に包まれ、湿気と錆びた鉄の臭いが漂う。
タロは座り込み、少し明るい笑みを見せようとする。「あ、あは……怖いけど、僕、負けないからね!」
イヴはその隣に腰を下ろし、タロの手をそっと握った。
「ええ、私たちはここで終わりじゃない。心を強く持って。」
地下牢の外では、沼王ナーガと側近コドラが冷徹な視線で二人を見下ろしていた。
「逃げられたらレプタの計画は台無しだ。」
ナーガの低い声が階段に反響する。
コドラも頷き、牢番に指示を出す。
「監視を厳重に。少しの異変も見逃すな。」
タロは壁にもたれながらも明るさを失わず、イヴに小さく笑いかける。
「ねえ、イヴ。怖がるだけじゃなくて、作戦立てたらどうかな?きっとノラたち来るし。」
イヴは優しく微笑み返す。「ええ、その通りね。心を落ち着け、待つことが今できる唯一の抵抗だわ。」
地下牢の隅で二人は互いに顔を見合わせ、必死に落ち着こうとする。
タロは拳を握りしめ、明るくも決意に満ちた声で言う。
「僕、絶対に諦めない!ノラたちと一緒に戻るんだ!」
イヴは静かにうなずく。
「私も同じ気持ち。信じること、希望を持つこと。それが今の私たちの力。」
長い沈黙が続く中、二人は涙を流しながらも、希望だけを胸に抱き続けた。
レプタの策略によって囚われの身となった今でも、タロの明るさとイヴの落ち着きが、互いを支えていた。
外ではレプタの計画が静かに進行している。
しかし地下牢の中で、二人は信じる力を失わず、仲間たちが必ず現れるその日までじっと耐えるのだった。




