第171話 誘拐された二人
ノラたちは道場をすぐに出発し、タロとイヴを奪還すべくレプタに向かい慎重に進んでいた。
四人の目には、怒りと決意が混じる。
「絶対に助けます……!」
ミロが低く呟き、杖を握る手に力を込める。
クロは狼牙を背に、視線は遠方を鋭く射抜く。
ティカも鞭を手に、空族としての勘を研ぎ澄ませる。
ノラは前方を見据え、作戦を整理していた。
一方、その頃、レプタの側近スガイズとその部下達は完璧な計画を実行に移していた。
彼らは変装し、タロとイヴの護衛として道場への道のりへ二人と一緒に居たグイに接近する。
しかし、グイは少しの違和感に気づきかけた。
「……ん?」
グイの眉がぴくりと動く。
だが次の瞬間、スガイズは冷酷に判断した。
瞬間の隙を突き、グイの視界を遮る。
部下の三人が背後から押さえ、スガイズは短剣で仕留める。
グイの体は静かに地面に倒れた。
目はまだ開いていたが、抵抗は不可能だった。
その間にも、タロとイヴは無言のまま連れ去られる。
スガイズは部下たちに手際よく指示を出す。
「次のポイントに渡せ。バトンのように流すのだ。」
部下たちは無言で頷き、二人を引き渡す。
森を抜け、狭い山道、川沿いの林道そして南東湖にて増援部隊が待つ各地点に、タロとイヴは次々と渡されていく。
どの部隊も瞬時に役割を理解し、無駄な動きは一切ない。
レプタまでの道程は、まるで流れる水のように滑らかで、迅速そのものだった。
その間、タロもイヴも必死に抵抗しようとするが、部隊の人数差と迅速な連携には抗えない。
「ノラ……クロ……ミロ、ティカ…!」
タロの声がかすかに響くが、助けを呼ぶ間もなく次の部隊へと連れ去られる。
スガイズ自身も冷静そのものだ。
「慌てるな。計画通りだ。」
彼の視線は、常に先を見据えている。
まるでチェスの駒を運ぶかのように、二人をレプタの元へと確実に運んでいく。
一方、ノラたちは
道中の痕跡を確認しながらも焦燥感が募る。
「待て……!どこだ……タロ、イヴ!」
ノラの声に、怒りと焦りが混じる。
森の中では、風の音に混じって、かすかな物音がする。
だが、それは作戦が成功した後も抜かりなく監視を続けるスガイズの部下達の移動音。
音の一つ一つに無駄はなく、自分達の存在を完全に隠すように進む。
数時間後、スガイズの計画通り、タロとイヴは最終ポイントで待機するレプタの増援部隊へと引き渡された。
彼らは疲労も見せず、冷酷なまでに迅速で、誰一人ミスはなかった。
その背後には、ただ静かな森だけが広がる。
スガイズは最後にタロとイヴを確認し、短く言った。
「これで、ノラたちは焦るだろう……予定通り。」
風が竹林を揺らし、葉の間を光が差す。
しかし、タロとイヴを救うべく立ち上がるノラたちの戦いは、すでに避けられぬ運命として始まっていた。




