第170話 失踪と怒り
六人とヤマト無双流道場で共に汗を流す日々。
信頼が育ち、戦いに備える強さと絆が深まっていった。
タロとイヴも、毎日隅っこでノラたちを見守りながら、龍の言葉を思い返していた。
「夢の力とは何ぞや。その望みの強さに比例する。強く願い、夢を見る者ほど、その想いは大きな力となる。」
互いに夢を語り合いながら、自分たちの想いを確かめ合う二人。
日々の修練の中で、夢は力となり、仲間との絆を支えていた。
しかし、ある朝、いつも通りの修練を終えた道場で異変が起こる。
昼を過ぎても、タロとイヴが現れなかったのだ。
「おかしいわね……いつもならもう来てるのに」
ミロが杖を握りしめ、辺りを見回す。
クロも眉を寄せ、周囲の気配を探る。
「何かあったのか……?」
その時、血相を変えた猫王の側近、グイの従者が道場へ駆け込んできた。
「皆さん、緊急です……!」
従者の声に、道場の空気が一瞬で張り詰める。
「何があったんだ?」
ノラが駆け寄り、問い詰めるように訊く。
従者の話によると、タロとイヴと護衛の役目を務めていたグイが、何者かに襲われ血を流して倒れていたという。
幸い命は助かったものの、意識は戻らず、寝たきりの状態だという。
そして、タロとイヴの姿も見当たらない。
ノラたちは顔を見合わせ、言葉を失う。
「タロとイヴ……どこに……!」
クロの声には、怒りと焦燥が混じっていた。
ミロも唇を噛み、短く息を吐く。
「私たちが守らなければいけないのに……!」
ほどなく、ヤマトの衛兵が関所で発見された手紙を持って現れる。
ノラがそれを開くと、赤黒いインクで書かれた文字が視界に飛び込む。
そこにはナーガの部下からと思わしきがあった。
内容は、ノラたちが持つ「力」「優しさ」「命のルーン石3つ」と「共鳴の月の石」の要求で人質であるタロとイヴと交換せよ。
というものだった。
「……ふざけるな!」
ノラの拳が固く握られる。
「許さない……絶対に救い出します!」
ミロの声には、怒りと決意が滲む。
ティカも鞭を握りしめ、鋭い眼差しを光らせる。
「タロ、イヴ……私たちが必ず…!」
四人の胸に、共通の決意が燃え上がった。
ノラは手紙を握りしめながら、冷静に状況を分析する。
「手紙が関所に落ちていたということは……俺等を挑発するための罠かもしれない。ナーガはただ脅してくるだけではない気がする…」
クロも頷き
「だが、油断はできない。今こそ連携が試される時だ。」
ミロは静かに息を整え、杖を軽く振って目線を上げる。
「私たちがここで迷うと、タロとイヴが危険になる。」
ティカも鞭を体の前で回し、鋭い声で言った。
「逃げるわけにはいかない。」
四人の間に、無言の連帯感が流れる。
怒り、焦り、悲しみ……すべてが力となり、決意を加速させる。
その日の道場は、静かだが張り詰めた空気に包まれた。
仲間を救うための戦いが、すでに心の中で始まっていた。
竹林を揺らす風が、まるで未来への行動を促すように二人の決意をさらい、太陽がゆっくりと道場を照らす。
夕暮れまでには、行動を起こすための策と作戦を練り上げ、ノラたちは次の一歩へと歩み出す準備を整えていた。
仲間を取り戻すための戦い
――その先には、まだ見ぬ苦難と試練が待ち受けている。
だが、四人は誰一人として迷うことはなかった。
守るべきもののために、立ち上がる。




