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ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
13章 ヤマト(2)

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166/201

第166話 誇り高き六破

ノラの暴走が止まり、

古代種化の訓練を終えた彼は、

タマモの治癒術で静かに体を休めていた。


訓練場に響くのは、風の音とノラの寝息だけ。

クロとレオンは傍らに立ち、しばし無言でその寝顔を見つめる。


ビャクがノラの毛並みを撫で、静かに呟いた。

「――古代種の血は、誇りと悲しみが表裏一体なのね。」


クロはレオンに目を合わせ、互いに小さく頷く。

「俺も、強くならなきゃ。」


ふたりの視線に宿るのは、仲間としての誓い

――そして覚悟だった。


クロは立ち上がり、レオンに頭を下げる。

「レオンさん。改めてですが、正式な鍛錬をお願いします。」


レオンは驚いたように眉を上げ、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。

「クロ、お前は破邪衆ではなく、世界の秩序を守るために司法警察に所属していた。

そして旅で多くを学び、再びヤマトに帰ってきた。

ならここで、族王に仕える者としての覚悟、王とは何か、破邪衆とは何か、

すべてを知り、武を磨け!」


二人は構えを取り、訓練場に風が走る。

クロの脳裏に、北東湖での兄・シロの言葉が甦った。

『牙は人を傷つけるためにあるんじゃない。守るために使うんだ、クロ。』

その記憶が胸の奥で再び灯となる。


レオンは戦斧を構え、踏み込みと同時に大地を震わせた。

その立ち姿はまさに獅子の王。

クロはその力に押されながらも、一つひとつの動きに「誇り」という意味を刻んでいく。


鍛錬の合間、クロが息を整え問いかけた。

「レオンさん、破邪衆とは何ですか?

そして、ライガ王が破邪衆を降り王の道を選んだのは……何故ですか?

王の道は旅で出会った他国の王たちを知ったことで、ずっと重いものに感じます。」


レオンは戦斧を地に突き立て、空を見上げた。

秋風が吹き抜け、夕陽が横顔を照らす。


「――“破邪顕正”。それが破邪衆だ。」

その四文字を、祈りのように口にした。


「俺たち破邪衆は、“邪を破り、正を顕す”ために在る。

だが、正義を名乗ることはできない。

罪も穢れも知った上で、それでも闇を裂く者たちだ。

狡猾に悪と呼ばれようと、己の正しき正義を貫く。

それが破邪衆の心…。

王になれば、それは出来ない。だからこそ王には重い責務が必要だ。公平であることも。ライガには出来て、俺には出来なかったことでもある。」


クロは黙って耳を傾けた。

レオンの声には、戦士というより“懺悔する者”の静けさがあった。

「破邪衆は、だから六破と称賛され、畏怖されてきた。

ヤマト無双流の信念で、世界を濁らせはしない。

力も必要だが、王を支える大切なものは魂で“正しさ”を守ること。

王はその正しさを曲げさせない器でなければならない。」


クロは拳を握りしめた。

「……破邪顕正。

それがノラや兄さん、レオンさん、そして他の六破が背負う意味なんですね。」


レオンは頷き、戦斧を再び構える。

「そうだ。誇りを忘れた破邪衆は、ただの破壊者だ。

だが魂を貫く者は、いつか“正”を照らす光になる。

だからこそ――破邪衆は六席のみなのだ。」


クロは立ち上がり、再び構えを取った。

「なら俺は、まずその光を身に付けます。

誰かの“正しさ”を守れる破邪の心も。

兄さんが北東湖と世界を守るように、

俺はヤマトとこの世界、民の平和を守る力を手に入れる!」


レオンは静かに笑い、

「……それでこそ、破邪の心だ。

だがクロ、お前の目指すべきは――その先にある、大いなる責任を持つ器かもな。」


その言葉に、クロは目を見開いた。

その瞳の奥に、未来の“王”の光が灯っていた。


夕陽が木々を赤く染め、影が伸びる。

ノラがゆっくり目を覚まし、鍛錬中の二人を見つめた。


タマモとポンタは微笑む。

「まったく……休んでても落ち着かない子たちだね。」


ビャクがノラの隣に腰を下ろす。

「でも、これが“六破”だもんね。」


ノラは小さく笑い、

「……誇り高き六破か。

もしかしたら、クロは王の道かもな……。」


夕陽の中で、クロとレオンは互いに武を交わし、

それぞれの誓いを胸に刻んでいた。


“破邪衆”――それは、武を通じながら“己の正義”を求め続ける者たちの名。


そしてこの日、クロの中に眠る“王の器”が、静かに目を覚まし始めていた。

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