第160話 嵐前の静けさ
謁見を終え、ミロとティカにヤマトの街を案内していた。
広々とした石畳の大通り、香ばしい匂いを放つ屋台。
そしてヤマト周辺にて集められた珍しい品々に、二人は目を輝かせている。
「わぁ……ヤマトって、すごく賑やかなんだね!」 「ほんと。どこか懐かしい匂いもする……」 ミロとティカの言葉に、ノラは少し照れくさそうに鼻を掻いた。
そして、ノラとクロは声が重なる様に
「皆、紹介所に寄ってシロの件をチロに伝えたい」
タロとイヴは
「チロにまた会えるんだねっ!」
と喜んでいた。
やがて彼らは紹介所に立ち寄り、そこで待っていたシロの妹チロに再会する。
「ノラ、クロ!そしてタロくん、イヴちゃん!お帰りなさい!」
「そして、お二人共初めまして。クロの妹のチロです。兄がいつもお世話になってます。」
紹介所の扉が空き、ノラ達と解った途端
チロが駆け寄り笑顔を見せる。
「ただいまチロ。今日も仕事頑張ってるね!」
ノラはチロの頭を撫で
「チロ……僕も会えて嬉しいよ!元気そうで安心した!」
タロは少し照れながらも穏やかな声を返した。
「ほんとに……またこうして会えて幸せです。」 イヴも優しく頷き、再会を喜んだ。
「ただいま…。兄さんに会えるよチロ…。」
とクロが北東湖での出来事を伝えた。
チロは嬉しそうに目を潤ませながら声を弾ませた。
「シロ兄ちゃんが……北東湖で生きてるって、本当なんだね! 制限があっても北東湖に行けば会えるなんて…。皆さん。そしてティカさん本当にありがとうございます……。」
感極まったように語るチロの姿に、ノラたちは胸を熱くする。
そのやり取りに、ミロとティカは目を丸くしていた。 「……シロさんとクロの妹さん、とっても可愛らしくて犬族のアイドルみたいですね!」
「うん。北東湖でよくシロが話してくれてた妹チロにも会えたしヤマトに来れてよかった。」
やがて一行は、 ヤマト無双流総本山 最大規模を誇る道場へと足を運ぶ。
門をくぐった瞬間、凛とした空気と木の香りが漂い皆が自然と背筋を伸ばした。
「久し振りだな……」とノラは低く呟き、クロは黙って頷く。
仲間たちが互いの視線を確かめ合い、これから始まる鍛錬への決意を静かに固めていた。
――その頃。
ヤマトの街に、スガイズとその部下たちは全身を自在に変化させ、今は猫族の青年に擬態していた。
部下たちもまた擬態に長けたナチュラビストたちで、犬族や猫族に成り代わって人混みに紛れている。
「……油断するな。ヤマトの犬族や猫族は嗅覚が鋭い。少しの違和感でも怪しまれる」 スガイズは低く囁き、部下たちは静かに頷いた。
スガイズ達は抜かりがなくレプタにて潜入様に使う為、栽培している特別な匂い消しの草を使っていた。
彼らは街を探索しながら、ノラたちの動きを遠巻きに監視していた。そして道場に入る彼らを目にすると、スガイズの目が爬虫類特有の光を帯びる。
「鍛錬に没頭すれば……必ず隙が生まれる。その時が好機だ」
嵐の前の静けさの中、街の喧騒に紛れた暗い影が牙を研いでいた。




