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ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
1章ヤマト(1)

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16/201

第16話 揺らぐ秩序

夜のヤマト。

街の広場には灯籠が揺れ、風車が低い唸りを響かせていた。

その下で、クロは一人、司法警察の通信端末を操作していた。


淡い光に浮かび上がったのは、統一政府本部からの指令。


――「トヒに関する過剰な調査を控えよ」


クロの眉がわずかに動いた。

兄の死の真実を追うことは、すでに司法警察内部で“危険視”されている。


(……やはり、何かを隠している)


背後から足音。

振り向くと、同僚の司法警察官たちが二人立っていた。


「クロ。最近、お前の動きが怪しいぞ」

「過去に囚われすぎるな。……上も目を光らせてる」


声音は忠告のようでありながら、どこか探りを含んでいた。

クロは冷ややかに返す。


「心配には及ばない。任務は遂行している」


二人が去った後、クロは深く息を吐く。


秩序を守る組織の中でさえ、亀裂が走っている。

司法警察は“真実”を求める場所ではなく、“秩序”を守るためなら隠蔽すら選ぶのだ。


クロは拳を握りしめた。

(俺は司法警察の犬じゃない。……兄さんの弟だ)



---


一方その頃。

ノラは議事堂の裏手にある静かな広場にいた。

机の上に置かれたのは、討伐の返礼で得た“レコード”と呼ばれる円盤。


黒い円盤に刻まれた溝を、義手の指でなぞりながら光にかざす。

その瞳は、戦士ではなく研究者のものだった。


「……トヒは、こんなものを一から発明したのか」


音を記録する技術。

それは単なる道具ではなく、彼らが“想いを形に残そうとした証”だったと推測する

ノラの胸に芽生えたのは

怒りでも憎しみでもなく敬意。


(トヒは……本当に“家畜”だったのか?)



---


「ふむ、面白いものを見ているな」


背後から柔らかな声。

振り向けば狐のナチュラビスト、タマモが佇んでいた。

金色の瞳は月光を映し、不思議な妖艶さを帯びている。


その隣には丸い腹を揺らす

狸のナチュラビスト、ポンタ。

愛嬌ある笑みを浮かべながらも、その瞳は鋭く

油断のならない光を宿していた。


「……犬族の破邪衆か」

ノラが低く呟く。


タマモはふっと微笑んだ。

「久々だなノラ。我らは今も犬王の“王の耳と目”。……ノラ、お前の動きも監視対象に入っている」


ポンタが尻尾を揺らし、どこか飄々とした口調で言う。

「でもまぁ、悪いようにはしないさ。オレたちもこの街を守るのが役目だからな」


ノラは義手を握りしめ、視線を逸らさずに答えた。

「……守る、か。なら訊かせろ。トヒは、本当に“平和の象徴”なのか?」


一瞬、二人の腹心は言葉を失った。

やがてタマモが静かに笑う。

「その答えを知りたければ、もっと深く、この世界に関わることね」


ポンタも頷き、背を向けた。

「ノラ、お前の目はまだ曇ってる。だが……面白い奴だ。グイは元気か?」


二人の犬王の側近は月光の下に溶け、やがて闇に消えていった。

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