第154話 古代種の血
月からの帰還――光に包まれた一行は、無事に北東湖の岸へ降り立った。
湖面に映る自分たちの影と、遥か彼方の星々を見上げ、イヴは静かに息を吐いた。
「……戻ってきたね、みんな」
ノラも深く頷く。
義手に宿る淡い光は持ち帰った月の石に呼応してる。
夢の力が彼らを包み込んでいる証だった。
クロが肩を叩き、タロが小さく笑った。
皆、無事に帰れたことへの安堵と喜びに満ちていた。
そのとき、白銀の龍が静かに声をかける。
「無事に、月の石を持ち帰ってこれたようだな…。月から見たこの星はきれいだったか?
帰ってきて早速で悪いが
……ノラよ。そなたの血筋――おそらく『古代種』の系譜を引いておるが自覚はあるか?」
「言われたことがあります…」
ノラはその言葉に眉をひそめ答えた。
以前、南東湖湖王トールに同じ指摘を受けたことを思い出していた。
「これからルーン石を巡り争いが起きた時のために十分そなたは強きものだがさらなる成長を目指す為に我とマナスの力で過去に送ってやろう。そこで自身に流れる血の秘密を知りなさい。」
自分の過去、そして世界の真実に触れるための鍵――その存在を。
龍は続けた。
「過去を知るには、現代に戻る方法が必要だ。これを渡す。変哲もなく見えるが特別な種だ。」
手渡されたのは小さな種。
「これを食せば、そなたは無事に時を遡ることができる」
ノラは種を握りしめ、胸に手を当てる。
「……わかった。過去を知るために、必ず戻る」
決意の光が瞳に宿った。イヴたちの視線も温かく、そして力強かった。
龍と湖王マナスの不思議な力が、ノラを包み込む。
蒼銀の光が渦巻き、空間が歪みノラは歪みの渦へと姿を消しはじめる。
仲間たちは見守りながら、静かに息を整えた。
その間、他の者たちはそれぞれに修練を続ける。
クロは兄であるシロの元へ向かい、狼牙を使いこなせるように元持ち主である兄と武の稽古に励む。
兄弟というだけではなく、弟子としての心得と、師との信頼を深める時間だ。
ミロとティカは武具の扱い、組み手に取り組み互いの力を高め合う。武器と拳と技が交錯するたび、息遣いや呼吸がひとつになり、心と体の調和を覚える。
タロとイヴは湖王マナスと向き合い、夢の力をさらに深く学ぶ時間を得た。
「力は守るためにある。そして未来は、今日の選択で紡がれる」
マナスは静かに告げる。
イヴは頷き、タロと共に夢の力を伝える方法、そして大切な命を守る意義を改めて胸に刻んだ。
やがて、ノラは歪んだ渦の中でゆっくりと消えながら伝える。
「行ってくる……過去を知るために。」
仲間たちは声を揃えて答える。
「待ってる! 戻ってきたら、また皆で力を合わせよう!」
月の光を胸に刻み、北東湖に集う六人の絆はますます強くなる。
それぞれが未来と過去を見つめ、守るべきもの、信じるべきものを胸に誓った
再び一堂に会するその日まで。




