第150話 イヴの夢
龍は静かに目を閉じたまま、長い沈黙の後に語りかける。
「そなた達は今、力と優しさのルーン石を持っているな? 何故ルーン石を集めている?」
ミロが口を開き、落ち着いた声で答える。
「南の国レプタの沼王達がルーン石を集め使い、邪なことを何かを企んでいるのです。それを阻止するために、私たちは皆で旅を続けています。そして世界の真実を自分の目で確認する為にも。」
「この時代にも悪用を考える者達が居たとは……。
だが、ルーン石の真なる力を解き放つには、この地を離れ、月へと至らねばならぬ。」
ノラたちは息を呑み、互いに顔を見合わせ空を見上げた。
クロが思わず声をあげる。
「つ、月だと……? あんな空の彼方へどうやって……!」
タロは小さく後ずさりしながら拳を握る。
「そ、そんな……どうやって行くんだよ、月なんて……!」
ミロは手を胸に当て、少し俯きながらも柔らかく問う。
「……あの空の彼方へ。そんな道があるのですか?」
龍は重々しく頷き、さらに語る。
「地上の者が月へ至る道はただひとつ。トヒ……その中でも、月に夢を見思いを寄せるトヒの力を借りるのだ。トヒの夢と思いの力なくして月へは渡れぬ。」
その言葉に場は凍りつき、皆が困惑を隠せなかった。
タロは唇を震わせ
「う、嘘だろ……そんなの……。」
と小声で呟く。
重苦しい沈黙が漂う中、恐る恐る小さな手が上がった。
それは……イヴだった。
イヴは俯き、指先を握りしめながらも少しずつ勇気を振り絞りながら俯き、震える声で言う。
「わ、わたし…月に憧れてて、いつかお月様に行けたらって……ずっと夢見てたの。もしかしたら、わたし……」
皆の視線が一斉にイヴへ集まる。
ノラは驚きと共に目を細める。
「イヴ……君が……」
クロも口を開け、驚きで声を詰まらせる。
「え、えっ……ほんとうに……イヴが……?」
龍は静かに微笑を浮かべ、穏やかな声で告げる。
「そうか。イヴそなたが導かれしトヒか。
ならば約束しよう。月に眠る……『知』『力』『優しさ』『命』、四つのルーン石を共鳴させる『特別な月の石』を持ち帰ることができれば、命のルーン石を授けよう。
そして、ノラ……。
そなたの義手には探さなくてはならない月の石の一部が、何の因果か解らぬが、使われている様だ。
『特別な月の石』は互いに引き寄せられる。役に立つであろう。
そして、ハッキリとまだ気付いていないだろうが己の血に流れる受け継がれし血筋についても教えよう。」
ノラは目を見開き、拳を握りしめる。
「え……俺の義手に特別な月の石が使われてる!? 本当に……?そして血筋って……?俺は一体……」
クロも目を潤ませながら頷く。
「これで……希望はあるんだね……!」
タロは拳を震わせ、心底感動した様子で言う。
「イヴはお月様だったんだね……!僕は太陽に憧れてる!!」
ミロは柔らかく微笑み、優しく頷きながら言う。
「イヴさん……あなたが鍵を握っていたのですね……。私たち、きっと上手くやれますね……」
こうして、「月」へと挑む新たな旅路へと導かれるのだった。
白銀の龍の存在が優しく包み込み、未来への希望の気配が静かに漂っていた。




