第148話 実在する伝説
湖面の霧が静かに揺れる中
「ノラ、クロ会えて嬉しいよ。ティカ連れてきてくれて有難う。」
シロは感謝する。
ティカは小さく俯きながら、静かにノラとクロに謝る。
「話せずにいてごめんなさい。」
その言葉に続き、ティカはシロが北東湖で過ごすようになってから、自身がシロに修業を付けてもらっていた事を明かした。
そして空族の龍信仰巫女としての立場があり、唯一、龍と繋がると説明するティカ。
その瞬間、湖の霧の中から白銀の龍が姿を現した。
五人は驚き固まる。
龍の右手にはルーン石と思しき輝く石が握られていた。
龍の声が、一行の脳内に響く。だがそれは実際に発せられた声ではなく、各々の心に直接届く言葉だった。
「マナスと、特例の一部の空族ティカ以外の、試練を乗り越えし強き者達は久しく会っていなかった。しかし時代が変わり、話せる者がついに現れたか。そしてお前の身内とは。良かったな、シロ。」
その不可思議な体験に、ノラとクロ、さらにミロ、タロ、イヴの五人は驚きを隠せなかった。
ミロは目を大きく見開き、震える声で呟く。
「え…龍は本当に実在したのですね…。そしてこの方が…シロさん…?」
まだ心の中で整理がつかず、ただ存在感に圧倒されていた。
タロは拳を軽く握りしめ、興奮と緊張が入り混じった表情で小声で呟く。
「伝説…って龍って本当にいるんだ…!そしてクロのお兄ちゃんすごく強くてカッコよかった!!」
その重みと威圧感に圧倒されつつ、初めて見る龍の姿に感動していた。
イヴは手を胸に当て、目を潤ませながらも静かに観察する。
「…この人が、クロの…兄さん…なのね…」
口には出さないが、深い尊敬と畏怖が入り混じった感情を抱いていた。
龍は、誰に向けた言葉か明示せず、特別な権限を与えられた者だけが意思疎通できることを説明し話を続けた。
地上でナチュラビスト達が領土と食を理由に戦(統一戦争)を始めたが、特に龍は気にせずに居た。
ある日ティカが龍のもとに命が尽きた犬族シロを連れてきた。
ティカは、同胞の空族が戦場に居たレア種のトヒを食べた途端、口から咆哮とともに光線を放ち暴走した為に危険分子と見做してその場で切り捨てた。
そしてらその場に居たシロは仲間を庇いその暴走により命を落としていた。
戦とはいえ仲間を庇い己の命を他者に掛けた事にティカは感銘を受け、同胞の不始末の尻拭いで申し訳無いと思いせめて北東湖だけでも生きれる様に龍に懇願した。
龍は自身の不思議な力と命のルーン石を使い、「生」に対し邪な気配を魂に持たず純粋に他人の為に命を賭け死を選んだ勇敢さを判断し、ティカの望みを受け入れ力を使い、北東湖のみで生きれる身体にした。
こうして、特殊な霊体として生き返ったシロは龍とティカから説明を受け、今後の選択を迫られる。
湖から出ず、龍の守護者となるか、それとも死に戻るか。
シロは迷わずこの世界を北東湖から微力ながらも護ると決意を示し、北東湖および龍の守護者となることを選んだ。
ノラは思わず声を震わせる。
「えっ…シロ、ずっと…生きていたのか…?」
クロは涙をこらえきれず、震える声で呟く。
「兄さん、会いたかった…」
ノラとクロは涙を流しながら、シロへ駆け寄った。




