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ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
12章 北東湖

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145/201

第145話 ハコニワ産まれの3人

深い霧が心の湖を覆い、ミロ、タロ、イヴの三人はそれぞれ孤独な記憶の中へと閉じ込められていた。

目を開けても、そこに広がるのは過去の幻影。

逃げ場はなく、心の弱さを容赦なく映し出す試練が彼らを蝕んでいく。


 ミロの前に現れたのは、幼い頃に亡くなった母の幻影だった。

「お母様……」

 ミロは震える声で呼びかける。

だが母は答えず、ただ幸せそうに他の子供たちと手を繋いで歩いていく。

庭園で親子が笑い合う姿、広場で子供が母の膝に飛び込む姿。

そのどれもが、幼いミロには決して手にできなかった光景だった。


「どうして……私は王の娘であるはずなのに、こんなにも一人ぼっちだったの?」

 父は王としての務めに追われ、四天王に囲まれて育てられた幼少期。

王女として守られながらも、心の奥ではただ母に甘えたかった。

手を引かれ、景色を共に見て、声をかけてほしかった。


 幻影の母は微笑みながら別の子供を抱き上げ、遠ざかっていく。

ミロはその場に膝をつき、喉の奥から絞るように声を洩らした。

「私も……ただ、お母様の子供として抱きしめてほしかった……」


 だが次の瞬間、彼女の胸に浮かんだのは今の仲間たちの顔だった。

ノラの真っ直ぐな眼差し、クロの支えるような背中、タロとイヴの笑い声。

彼らと共にいる時、自分は決して一人ではないと知っている。


「……そうね。私はもう孤独じゃない。皆がいるから」

 涙を拭ったミロの周りに光が広がる。

幻影の母が振り返り、柔らかに微笑んで消えていった。胸の奥に温もりだけが残り、ミロはまっすぐ立ち上がった。


 タロの目の前には、無数のトヒたちが群れていた。

みな似た姿をしているのに、誰も言葉を発しない。

タロが「ねえ、遊ぼうよ!」

と声をかけても、無言で遊びに付き合ってくれる空っぽな同じ子供たち。

大人は虚ろな瞳で見つめるだけ。

やがてナチュラビストが現れ、彼を粗雑に押しのけた。


「お前は変わり者だ。ここにいろ」

 言葉を持つ特異な存在として、特別な小屋に押し込められた日々。

閉ざされた扉の冷たさが胸を締めつける。

「どうして僕だけが違うの……?どうして僕ばっかり……!」

 孤独と怒りに声を上げるが、返事はない。


 その時、タロの心に浮かんだのはイヴの姿だった。

泣きそうな顔の彼女を見て「僕が笑わせなきゃ」と必死にふざけていた自分。

イヴが微笑んだ瞬間の嬉しさ。

「僕は……イヴを守りたいんだ。僕が明るくしなきゃいけないんだ!」

 子供らしい力強い叫びと共に、暗闇を押しのける光がタロの周りに広がった。

孤独の小屋は消え、彼は真っ直ぐ前を見据えた。


 イヴの周りでは、ナチュラビストの影が冷たく囁いていた。

「お前はただのトヒだ。言葉を持つ者ではない」

 突き飛ばされ、石ころのように扱われた記憶。

周囲のトヒたちは声もなくただ並んでいる。

イヴは唇を噛み、心が折れそうになった。


しかし、思い出す。

いつも隣にいてくれたタロ。

無理をしてでも明るく振る舞い、自分を笑わせてくれた自分と変わらない唯一の子供。

夜、彼が背を向けて泣いていたことにも気づいていた。

「タロ……あなたはお日さまみたい。でも、本当は無理してたんだよね。今度は私が……お月さまの明かりみたいに、あなたを包んで癒したい」


 その言葉と共に、イヴの胸から柔らかな光があふれ出す。

タロを見つめる瞳は揺らぎなく、深い優しさで満ちていた。


 三人の光は、孤独の闇を打ち払っていった。

改めて、ミロは仲間への信頼を、タロは守る決意を、イヴは癒す力を、それぞれ胸に宿し、静かに目を開けた。


 試練を越えた五人の魂は、再び光の中で一つに繋がっていった。

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