第143話 清き湖の王マナス
湖面に霧が漂い、北東湖は静謐な空気に包まれていた。
一行が湖畔に足を踏み入れると、ティカが深呼吸し、湖の奥へと歩みを進めた。
「マナス様……お時間を頂けますでしょうか」
ティカの声に応じるように、湖面の向こうから柔らかく波立つ光が集まり、一人の女性が現れた。
マナス――湖王として湖を護るナチュラビスト。
その姿は、優雅に水面を滑るマナティーのように静かで、清らかで美しい。
「ティカ……お久しぶりです。ご案内、ありがとうございます」
マナスは穏やかで澄んだ声を発し、湖面に反射する光が彼女を神々しく彩った。
ティカ以外の一同は、初めて目にするその美しさに言葉を失った。ノラが深く頭を下げる。
「は、初めまして。ノラと申します」
クロも息を整え、低く礼をする。
「クロです。よろしくお願いします」
タロは緊張しつつも笑顔を見せ、
「僕はタロです。失礼のないよう、しっかり挨拶します」
イヴは小さく手を合わせ、震える声で
「イヴです……どうぞよろしくお願いします」
ミロは少し照れながらも丁寧に
「私はミロと申します。ご挨拶申し上げます」
マナスは静かに微笑み、優雅に頷いた。
「皆様……そのように丁寧にご挨拶を頂き、感謝いたします」
ティカは深く一礼した後、今回の事情を丁寧に説明し始めた。
「実は北東湖に向かう途中、沼族の王とその部下たちがルーン石を集め何かを企んでいる可能性があり、私たち空族が悪であると吹聴しています。そのため、世界に危険が及ぶかもしれません」
マナスは静かに頷き、湖面の反射を見つめながら言った。
「なるほど……そういった事情でしたか。理解いたしました」
湖の水面を背景にマナスの瞳が淡く光る。
彼女の口調は柔らかく、だが確かな力と決意を宿していた。
「他の湖王たちと比べ、私の試練は皆様にとって、とても苦しく辛いものになるかもしれません。それでも、この試練を受けられますか?」
一同は互いに視線を交わし、少しの沈黙の後、決意を胸に答えた。
「はい。私たちは試練を受けます」
ノラが力強く宣言し、他の仲間たちも頷いた。
一行は互いに息を整え、試練への覚悟を胸に秘める。
「承知しました。では、皆様が湖王として認めるための試練を始めましょう」
マナスの声が湖面に響き、一行に近づき腕を広げ掌から暖かな優しい光を発した。
北東湖の静かな湖畔に、これから始まる試練の気配がゆっくりと立ち上り、霧と共に広がる中
ノラとクロ、ミロとタロとイヴはその場に倒れ意識を失った。




