第139話 空族の信仰
広間の空気を切るように、イーガが低く響く声を放った。
「ここから先は限られた者だけに伝えることがある」
その言葉に従い、王の間に集っていた衛兵たちへ退席を命じた。
「ノラ、クロ、タロ、イヴ、ミロ、そしてティカ……お前たち以外は外へ」
スワロとナイトへ、イーガは力強く命じる。
「扉の前を護れ。他の誰も近づけるでない」
「はっ!」と二人は即座に敬礼し、武器を携えて扉の両脇に立ち扉を閉めた。
重厚な扉がきしむ音とともに、残されたのはイーガとティカを除きノラ一行のみ。
静寂が落ちる広間に、イーガはゆっくりと歩みを進める。
彼の瞳には、決意が宿っていた。
「お前たちには伝える事がある」
ノラとクロは思わず息を呑み、タロとイヴ、ミロも真剣な面持ちで耳を傾けた。
イーガは低く続けた。
「他族でも噂されとる空族が古より信仰してきた“龍”……それはただの神話や寓話ではない。実在するのだ」
「……龍??が、実在する?」
ノラが驚きの声を漏らす。
イーガは重々しく頷く。
「龍は旧時代より遥か昔から生き続ける不思議な力をもつとされる聖なる生物だ。龍こそがルーン石の秘密を知る唯一の存在だ。
お前たちが探す“ルーン石”も、龍の導きを得ねば真に力を解放することはできぬ」
クロが拳を握りしめ、低く唸る。
「……その、龍が実在し真実を知っているのなら必ず会わねばならないな」
「ええ、夢へ……きっと繋がっているはずです」
イヴが静かに言葉を添える。
タロは目を輝かせて叫ぶ。
「すごい……そんな生き物に会えるなんて! 僕、夢みたいだよ!」
ミロも真剣な眼差しをイーガに向けた。
「では、その龍とはどこに?」
イーガは深く息を吐き、広間に重く響かせた。
「北東湖……あの湖は影から龍が加護しておる。お前たちはそこへ向かいまず、湖王マナスに会いなさい」
一同は言葉を失った。
だがその沈黙を破ったのは、ティカだった。
「北東湖へは、私が案内します」
ノラが振り返る。「ティカが?」
ティカは小さく微笑み、はっきりと頷いた。
「皆様の望む願いの答えは私にしか分からぬものです。父の願いを果たすためにも、私が共に行きます」
イーガは娘をじっと見つめ、やがてゆっくりと口を開いた。
「……ティカ、お前に託す」
ノラは深々と頭を下げた。
「イーガ様……本当に世話になりました。感謝している」
クロも静かに続ける。
「必ず戻ります。その時は…また改めて話をさせてください」
タロは笑顔で拳を掲げた。
「僕たち、必ず夢を持ち帰ってくる!」
イヴは礼儀正しく頭を垂れる。
「どうか見守ってください」
ミロもまた、真摯な声で告げた。
「父ブルの想いも共に背負い、必ず使命を果たします」
ノラ達は真っ直ぐ前を向き応じた。
そしてイーガは立ち上がり扉へ向かい開いた
「ご苦労だった。話は終わった」
とスワロとナイトを再び通した。
「スワロ、ナイトにも本当に世話になった。ありがとう」
ノラと一行は感謝し頭を下げた。
スワロが力強く頷き、ナイトが低い声で続ける。
「我らはここで守りを固める。お前たちは進め」
イーガもまた、深い声音で結んだ。
「お前たちの旅路に光あらんことを」
その言葉に背を押され、ノラたちは胸を熱くしながら頷いた。
ティカを先陣に、ノラ、クロ、タロ、イヴ、ミロ
――六人はエアーを後にし、北東湖を目指して歩み出す。
扉の外で祈る声が、彼らの背中に確かに届いていた。




