第135話 夢が示す真実
イーガの広間に沈黙が訪れていた。
語られたトヒの真実は、五人の胸に深い衝撃を与えた。
しかし同時に、それは希望でもあった。
夢が力となり、信頼で結ばれるほど強くなる。
その言葉は未来への光を示していた。
「僕たち……そんな力を持っていたなんて……」
タロは拳を握りしめ、瞳を輝かせた。
イヴは静かに微笑み
「私たちの夢が、みんなの助けになるのですね」
と柔らかく呟く。
ノラは息を整え、強く頷いた。
「……これでやっと、あの時のタロとイヴの力の意味が理解できた。タロとイヴを信じて仲間として過ごした気持ちに、今も変わらず嘘偽りは無い!」
ミロも杖を強く握りしめる。
「夢を信じることこそ、力になる……これ以上に尊いことはありません」
その時、広間に軽やかな足音が響いた。
風を切るように再び一行の前に、空王の娘ティカが現れた。
彼女は堂々とした姿で進み出て、静かに口を開いた。
「だが……真実は甘美ではない」
その声に、全員の視線が集まる。
ティカが現れノラはまた警戒を示す。
ティカは瞳を伏せ、遠い過去を語り始めた。
「先程、王から過去に統一戦争の最中――ひとりの空族が、戦場にいたレア種のトヒを捕食した話を聞いたと思います。その瞬間、空族の戦士はは口から光線を放ち、戦場を薙ぎ払った。巻き込まれたのは……犬族の戦士だった。そして、クロ君の持つその双刃の双剣と同じ物が傍らに落ちていた。」
ノラとクロの心臓が大きく跳ねた。
そして、ノラの視界の奥に、過去の戦場が蘇る。
倒れ伏すシロの傍ら、光を纏った空族が飛び立つ光景
――何度もフラッシュバックに苦しんできた記憶。
「まさか……」ノラの声が震える。
ティカは静かにうなずいた。
「その空族を危険因子と見做して、同胞であったが処刑したのは私だ。その光に巻き込まれそうになりその場に居た猫族を庇い倒れた犬族……、ノラ。
君は統一戦争を経験しあの場に居た猫族では?」
クロが息を呑む。
「ノラ……お前が見たのは……」
ノラは拳を握り締め、唇を噛みしめた。
「……あれは、シロだった。俺の傍で、俺を守ってくれて……何かに撃たれたんだ…。」
ミロも目を伏せ、静かに祈るように呟く。
「ノラとクロの過去の悲劇が、ようやく繋がったのですね……」
クロは涙を堪えながらノラの肩に手を置いた。
「ずっと苦しんできた記憶だった。でも、ようやく真実に辿り着けたんだ…」
ノラは涙をこぼし、ティカを見つめる。
「教えてくれて……ありがとう」
ティカは真剣な眼差しで応える。
「罪を背負った同胞を見てきたからこそ、伝えるべきだと思った。君たちが歩む未来に、同じ過ちを繰り返してはならない」
イヴもそっとノラに寄り添い、柔らかく微笑んだ。
「シロの想いは、きっとあなたたちの中で生きているわ」
タロも力強く言葉を重ねる。
「僕たちみんなで、その想いをつないでいこう!」
涙と希望が交錯する広間に、確かな絆が芽生えていた。
過去の悲劇は悲しみをもたらしたが、それを知った今だからこそ、未来へ踏み出す力に変えられる。
ノラとクロの目には涙が光っていた。
二人は同時に、ティカへと頭を垂れた。
「もう一度言わせてくれ……教えてくれて、本当にありがとう」
「あの時、犬族が庇った猫族はやはり君だったんだね。そして、その犬族の弟クロにも出会えてこうして2人に伝えられて良かった。」
ティカはそう答え、静かにうなずきその瞳に確かな決意を宿していた。




