第128話 狼牙とクロ
クロは狼牙を両手に握りしめ、呼吸を整えた。夜の闇を切り裂く刃の軌道に、ナイトの冷静な眼差しが光る。
序盤の翻弄により心が揺らいでいたが、過去の兄の教えを思い出し、今こそ立ち上がる時だと意識を集中させる。
「俺は…俺の刃を振るう!」
クロは力強く叫び、狼牙を一振りにまとめ、ナイトの両手のククリナイフを捌く。
両手武器の特性を活かし、刃を自在に操るその姿に、ナイトもわずかに眉を上げた。
「なるほど、己を見つけたか。だが、覚悟はまだ試される。」
ナイトは哲学的な声で言葉を紡ぎながらも、動きは緩めない。
闇に溶け込むような俊敏さで、クロの一振りを読み、攻撃を仕掛ける。
しかし、クロは兄シロの言葉を胸に刻んでいた。「手で覚えるな、心で振れ」
その意味を噛み締め、体の動きを刃の一部とする。
重く感じていた狼牙は、今や自分の意志で自在に振るえる武器となっていた。
「これが…俺の力だ!」
クロは両手を巧みに連動させ、ナイトのククリナイフを弾き返す。
連続攻撃をかわしつつ、寸止めの一振りでナイトの間合いを封じた。
その瞬間、ナイトの顔に驚きと微笑が混ざる。
「その刃は、己を知った証だな。」
ナイトは冷静に言葉を残し、降参を示す合図として刃を止めた。
クロは深く息をつき、狼牙を軽く胸に抱える。涙が頬を伝うが、それは迷いを断ち切った証だった。
「兄さん、俺は俺の道を行く…!」
クロは心の中でそう誓う。ナイトは静かに頭を下げ、敗北を認める。
「そうだ。兄の影を追うのではなく、己の刃を持て。」
その言葉を最後に、ナイトは月光に溶けるように去っていった。クロは狼牙を見つめ、自分の力と覚悟を実感しながら、戦いの夜を越えた新たな自分を感じた。
タロ、イヴ、ミロも安堵の息をつき、それぞれの胸に戦いを見届けた感慨を抱く。
ノラもクロの成長を目の当たりにし、仲間たちの心にも静かな喜びが芽生えた夜だった。




