第126話 心の迷いと兄の声
クロは必死に狼牙を構え、防戦一方だった。ナイトのククリナイフはまるで夜の闇そのもののように静かに、しかし容赦なく迫る。両手で振るう双刃の重みが、未熟なクロの腕にずっしりとのしかかる。
「覚悟なき者に、王の影は重荷でしかない。力だけでは足りぬ。心で斬れ、心で防げ、そして心で読み取れ。」
ナイトの冷静な声が、クロの耳を鋭く打つ。刃と刃がぶつかる音の合間に、哲学的な言葉がクロの胸に突き刺さる。
「俺は…俺は兄さんみたいにはなれない…!」
狼牙を握る手が震える。攻撃の間合いを読みきれず、ナイトの素早い動きに翻弄される。視界の端でタロやイヴの声援が聞こえるが、戦いに集中するクロには届かない。
「お前は己の影に怯えている。だが影は恐怖ではなく、導きだ。受け入れよ、己の心と向き合え。」
ナイトの刃が連続して迫り、クロは一歩下がる。だがその刃の間に、幼き日のシロの姿がふっと脳裏に蘇った。
「お前はお前でいい。俺の真似をするな。」
「武器は手に馴染ませろ。心で振れ。」
兄の声が、暗闇の中で光を放つようにクロの胸に響く。倒れそうになった体がわずかに震え、涙がこぼれそうになる。だが、その思い出が、迷いを断ち切る力となった。
「俺は…俺はクロだ!」
声を絞り出し、クロは再び立ち上がる。狼牙の握りを強め、腕の疲れを意識でコントロールする。ナイトの刃を冷静に見据え、攻撃の間合いと軌道を計算する。
「覚悟…か…」
ナイトの言葉が、遠くの反響のように心に残る。力だけではない、心と覚悟で戦うことの大切さを、クロは理解し始めた。
夜の風が吹き抜ける中、クロの瞳に決意の光が宿る。未熟な自分を受け入れ、兄の言葉を胸に刻み、戦いの長い夜に挑む準備が整いつつあった。




