第124話 夜を裂く翼
ノラとスワロの決着が付き、これからクロと空王側近のもう一人ナイトが向かい合う。。
「空族、我らの王イーガ様にはもちろん忠誠を誓い仕えているが、君たち犬族の王チャピ様の明哲さには、とても尊敬させて頂いている」
ナイトは静かに呟き、両手に握る鋭利なククリナイフを軽く振った。夜の闇に紛れるその姿は、まるで影そのものだ。
模擬戦の興奮がまだ冷めやらぬ空気の中、クロは狼牙を握りしめて立っていた。手にした双刃は重く、両手での扱いにまだ慣れていない。目の前には、静かに佇むナイト。
彼は、夜の暗殺者の異名を持つ空族であり、冷たい月光が瞳に反射する。理知的で哲学的な輝きがクロの胸を圧した。
「君はまだ若いな。だが、王の影を背負う者は覚悟を問われる。」
ナイトの声は低く落ち着いているが、重みがあった。クロはその言葉を胸に刻みながらも、まだ心が戦闘に追いつかない。
「俺は…俺は兄さんみたいにはなれない…。」
狼牙を握る手に力を込め、クロは呟く。両手に振り分ける刃の重さとバランスの難しさに、攻撃は鈍る。ナイトはそれを見逃さず、静かに笑みを浮かべた。
「焦るな、クロ。武器は手で覚えるものではない。心で振るうのだ。」
ナイトの両手が風を裂くたび、クロは翻弄され、防戦一方となる。暗闇そのものが刃になったかのように、ククリナイフが複雑な軌道で襲いかかり、クロの狼牙に衝突する。
タロとイヴ、ミロは部屋の端から見守る。
「クロ、大丈夫か…?ナイトさんも、速すぎるよ!」
「でも、クロさんもお兄さんの形見狼牙に馴れれば、絶対に勝てるはず…!」
ミロは心の中で応援する。クロも必死に耐え、狼牙の重みを体で感じながら、反撃のタイミングを窺う。
ナイトは一歩、静かに前に出る。
「王を支える者に必要なのは力だけではない。判断、忍耐、そして己を知ることだ。そして、それが私だ。」
クロの胸にその言葉が深く刺さる。未熟な自分、兄シロの背中を思い出しながらも、闘志を少しずつ燃え上がらせる。
夜の空気を切る刃の音が響き渡り、二人の距離は縮まっていく。クロの狼牙はまだぎこちないが、意識は研ぎ澄まされ、ナイトの攻撃パターンを理解し始める。その瞬間、戦いの長い夜が、ようやく動き出した。




