表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
11章 エアー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/201

第123話 削ぎ落とし研ぎ澄ます

スワロの分身はなおも乱舞し、夜風そのものが刃に変わったかのようにノラを追い詰めていた。十を超える残像が一斉に襲いかかり、誰の目にも勝敗は決したように見えた。


 イヴが悲鳴をあげる。

「ノラさん、もう無理……!」


 だが、ノラはヒトフリを握りしめ、わずかに口角を上げた。

「……ヤマト無双流の教えには、“武具を頼りに力を振り切るだけじゃなく、己を削ぎ落として研ぎ澄ませ”って言葉があるんだ。俺はそれに、ちょっとだけ自分の生き方を混ぜてみた」


 ノラは静かに腰を落とし、呼吸を整える。大地と一体化するように重心を沈め、ヒトフリをを逆手に構えた。


「奥義――《無双一閃・灰月はいげつ》」


 次の瞬間、ノラの体が霞のように揺らぎ、空気が震えた。スワロの分身が一斉に襲いかかる刹那……ノラは一歩、ただ一歩を踏み込んだだけ。


 だが、その踏み込みは全ての残像を断ち切る一撃となった。

 光のように閃いた刃は、真ん中を駆け抜け、ただ一人の“核”に吸い寄せられる。


 気が付けば、スワロの喉元にヒトフリの刃が止まっていた。冷たい刃がかすかに肌を掠めそうなギリギリ。だが、切り裂くことはない。


「こんなにてこずったのは久々にだった…。流石、空王の側近。」

ノラは小さく呟き、寸止めの構えを解いた。


 スワロの全身を冷たい汗が伝う。あれほどの速さをもってしても、最後の一撃を防げなかった。

「……見事だ。私の負けだ、ノラ」


 レイピアを静かに下げ、スワロは膝を折って降参を示した。


 タロが思わず声を上げる。

「やった! ノラ兄ちゃんが勝ったんだ!」


 イヴも涙ぐみながら拳を握る。

「すごい……最後の一撃、本当に見えなかった……」


 クロは深く頷き、拳を胸に当てた。

「俺も……あの一閃を目指す。今は届かなくても、いつかきっと」


 スワロは立ち上がり、悔しさよりも清々しさを漂わせながらノラに頭を下げる。

「君の剣は速さをも超えた。イーガ様に報告しよう。君たちには……謁見の資格がある」


 ノラは大きく息を吐き、義手の爪を収めた。

「……ありがとう、スワロ。お前の速さがあったから、この一撃を掴めたんだ」


 その言葉にスワロは小さく笑みを浮かべ、夜風にマントを翻した。


 戦いは終わった。だが、次の試練はもう近づいている。窓越しに差し込む月光は、その先に待つ運命を静かに照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ