第118話 別れと再会の約束
朝靄の残る空気の中、ノラたち五人は支度を終え、宿の前でビャクとシバに向き合っていた。
別れの時が近い。胸の奥に、言葉にできない名残惜しさが広がっていた。
「……名残惜しいけれど、私たちはここまでね」
ビャクは蜻蛉切を静かに背負い直し、穏やかな眼差しで五人を見渡す。
「次に会う時までに、もっと強くなっていなさい。約束よ」
シバは柔らかく微笑みながらも、その声には揺るぎない芯があった。
タロが拳を握りしめる。
「もちろんです! 次に会う時、胸を張れる自分でいたいから」
イヴも力強く頷く。
「必ず……また会いましょう。私たちは仲間ですから」
最後にミロが口を開いた。
「……必ず、強くなります。だから、今度は私も胸を張って再会できるように」
その言葉に、ビャクとシバは目を細めた。
別れ際、二人はふと声を落とす。
「五人とも、覚えておいて。空族の大半の秘密は――イーガの娘、次期空族女王ティカが握っているかもしれないの」
「本当なら会いたかったのだけれど……彼女は今不在。会うのは次の機会になるわ」
胸に重みを残す言葉。
五人はその名を心に刻み、静かに頷いた。
ノラとクロの先導で、一行は街道を抜け、エアー中央の第2の門を目指して歩み出す。
振り返れば、ビャクとシバの姿が小さくなり、やがて朝霧に溶けて見えなくなった。
「……必ず、また会おう」
ノラの呟きに、誰もが頷き、背筋を伸ばした。
風が頬を撫で、遠くから鳥の声が響く。
それはまるで、二人の六破が託した思いを背中で押しているようだった。
タロは歩きながら、拳を固める。
「ティカ……か。どんな相手だろうな」
イヴは心配そうにミロの顔を覗き込む。
「ミロ、大丈夫? なんだか顔が険しいよ」
「……大丈夫。だけど、胸の奥がざわつくんだ」
ミロは自分でも説明できない感覚に眉をひそめた。
クロは静かに空を仰ぐ。
「次に待つのは試練かもしれん。だが、逃げる道は無い」
ノラは仲間たちを見渡し、前を向く。
「進もう。俺たちの旅は、まだ始まったばかりだ」
その声に導かれるように、一行の足取りは確かに強くなっていった。




