表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜  作者: 大地アキ
11章 エアー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/201

第114話 ビャクとシバ

宿の一室。

ランプの淡い灯りが木の壁を照らし、外からは広場の賑わいが遠くに聞こえていた。

互いの旅の報告を終え、場がひと息ついたところで、ノラが口を開いた。


「それで…ビャク、シバ。二人はどうしてエアーに?」


ビャクは細い指で杯をくるりと回し、唇に笑みを浮かべる。

「犬王チャピ様と猫王ライガ様から命を受けたの。空族の動向と…特別な保護種トヒの真相をね。

それを確かめるために、私たちはイーガ様に会いに来たのよ」


シバは壁際に腰掛け、膝に置いた弓の弦を指先で静かになぞった。

「……私たちは、試練を済ませて正式にイーガ様に会った。

王たちは、空族の動きに誰よりも敏感だ。だからこそ、報告を欠かすわけにはいかない」


その声音は冷ややかに聞こえた。だが、ふとシバの瞳がノラに向いたとき、かすかな熱が宿った。

「昔、シロ様のそばで学んだ日々を忘れてはいない。……ノラ、お前は義手でも変わらず前に進むのだな」


一瞬の沈黙。

シバはすぐに視線を外し、再び冷静を装った。

ノラはその奥に隠された尊敬を敏感に感じ取り、口には出さず微笑みだけを返す。


クロが場を和ませるように口を開いた。

「つまり…チャピ様とライガ様は、空族への疑問を早くから察していて、確かめに来たってことか」


「そういうことね」

ビャクは頷き、長い毛並みを指で払いながら答える。

「トヒの存在は、空族にとっても大きな鍵を握る。だから私たちはその命で動いてここに来たの。……あなたたちがここに来たのも、きっと偶然じゃないわ」


ノラは苦笑しながら肩をすくめた。

「やれやれ……どうもビャクが隣にいると、何も話が頭に入ってこないな……。

相変わらず、マタタビより強烈だ」


その言葉にタロがすかさず口笛を吹く。

「へえ?ノラにそこまで言わせるなんて、ビャクさんってただ者じゃないな」


イヴは口元を押さえてクスクス笑う。

「ふふ、ノラってこういう時わかりやすいのね。顔に出てるわよ」


ミロは真面目な顔つきで首を傾げた。

「つまり……ノラにとって特別な方、ということでしょうか?」


「ちょ、ちょっと待て!」

ノラは慌てて手を振るが、その様子にビャクは妖艶に笑みを深める。

「まあ、初対面なのに見抜かれちゃったわね。可愛い弟子たちだこと」


室内に柔らかな笑いが広がり、重かった空気がすっかり和らいでいった。

その穏やかなひとときの裏に、それぞれの胸には次なる一歩の予感が静かに芽生えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ