第11話 鉄と廃材の街ヤマト
西へと続く街道を進む前にノラとクロは、
一旦東の国、故郷「ヤマト」の都市圏に帰省した。
そこは一見すれば雑然とした廃墟群。
だが目を凝らせば、それは秩序を宿した“再生の都市”だった。
錆びた鉄骨と割れたコンクリートを基盤に、
新たな建物が積み上げられている。
旧時代の廃材は壁や屋根に再利用され、
街には風車や水車が規則正しく設置されていた。
遠くには煙を吐く工場塔、近くの広場では職人たちが槌を打ち、機械部品を修理している。
路地には子供たちの笑い声が響く。
片耳の欠けた猫族の少年と、羽を持つ空族の子が木製の小舟を走らせていた。
市場では犬族の商人が改造道具や金属片を並べ、物々交換で取引を行っている。
この世界ナナシには「貨幣」は存在しない。
必要なものは「返礼」としてやり取りされ
技術と労働に各地のナチュラビスト達は汗を流し街を循環させていた。ここヤマトも。
戦後十年という短い時の中で築かれた社会は、
ぎこちなくも力強い営みを見せていた。
クロは足を止め、低く呟く。
「……やはり、ヤマトは変わらないな」
ノラは目を細め、街を見渡した。
「変わってないようで……少しずつ進んでる。俺たちも、そうかもしれないな」
風が吹き抜け、掲示板の依頼書がはためく。
“家畜管理”“遺物回収”“司法警察の指令”並ぶ文字に、ノラの胸にざらついた違和感が芽生える。
(……家畜。やっぱりトヒは……)
視線の先、小柄な人影が首輪をつけて歩いていた。
ナチュラビストに連れられ、荷物のように扱われる姿。旧人類、トヒ。
ノラは拳を握りしめる。クロは横目でそれを見つつ、表情を変えずに言った。
「ノラ、感情に流されるな。司法警察の記録では、トヒは平和の象徴として管理されている」
「……平和の象徴、ね」
ノラの吐き捨てる声。その瞳には冷たい光と、消えぬ怒りが燃えていた。
二人の視線の先に聳えるのは、
ヤマトの象徴犬族と猫族が共同で築いた議事堂。
その扉の奥で彼らを待つのは、
犬族の明哲王チャピ、そして猫族の力王ライガ。
ノラとクロの旅は、ここからさらに深みへと進んでいくのだった。




