第107話 機械式闘士
闘技場の風が、金属の冷たさを運び、ノラの毛並みを揺らす。
機械式闘士は静かに構え、翼を広げて空中に体を浮かせる。
その金属の肌は太陽光を反射し、ノラの木刀にも光が跳ね返る。
スワロの声が耳元で響く。
「相手の動き、呼吸、重心をよく感じろ。焦らず、体の感覚を信じるんだ」
ノラは呼吸を整え、木刀を両手でしっかり握る。
敵が一歩前進する。金属の関節が軋む音が闘技場に響く。
ノラは足元の地面を確かめ、踏み込みの角度を微調整する。
「まずは動きを読む……そして、間合いを詰める」
機械式闘士が空中に跳躍する。トンファーのような武具を振り回し、
ノラの周囲に風の刃が生まれる。木刀を振り上げ、斬撃を受け流す。
「よし……反撃のチャンスは一瞬だ」
ノラは体を低く沈め、木刀の先で相手の胸の方向を狙う。
敵の動きがわずかに緩む瞬間を見逃さず、体を跳ね上げる。
空中での一瞬の打ち合い。金属音と木刀の衝突が響く。
「感覚を研ぎ澄ませ…心と体を同期させるんだ」
ノラの目には冷静さが宿り、呼吸のリズムが整う。
スワロが翼を震わせ、次の動きを示す。
「相手の重心が崩れた瞬間を見逃すな。その感覚を信じろ」
ノラは木刀をしなやかに回し、敵の防御をかわす。
胸に取り付けられた水晶が僅かに光を反射する。
「ここだ……!」
木刀の先が光を貫くように振り下ろされる。
機械式闘士の胸の水晶が光を散らし、金属の体がわずかに揺れた。
闘技場全体に緊張の波が広がる。
ノラは木刀の感触を全身に伝え、次の攻撃のタイミングを冷静に見極める。
翼の軌道、トンファーの重心、金属の反動を瞬時に計算しながら体を動かす。
「一瞬の判断ミスも許されない……しかし焦るな」
風の音が耳をかすめ、金属同士の衝突が反響する。
ノラの瞳は鋭く光り、胸と頭の水晶への狙いを明確に定めた。
木刀が再び振り下ろされ、敵の防御を裂くように胸の水晶を貫こうとする。
心臓の鼓動が闘技場の静寂を打ち破るかのように響く。
ノラの集中は極限に達し、呼吸と足の踏み込みが完璧に同期する。
「……やってやる!」
機械式闘士の金属音が高まり、空中の舞が一瞬止まる。
ノラの木刀は水晶へと迫り、戦闘の緊張は最高潮に達した。
空気の振動、金属の軋む音、木刀の重み、すべてがノラの神経に直結する。
風が頬を叩き、視界に光の筋が走る。
「身体の隅々まで感覚を張り巡らせる……!」
木刀の先を微かに揺らし、敵の動きを誘う。
金属の翼が切り裂く空気の音、重心の変化、微妙な角度……全てを体で読む。
ノラは体を回転させ、敵のトンファーの一撃をかわす。
空中で軽く踏み込み、次の瞬間を狙う。
「今だ……!」
木刀が軌道を変え、胸の水晶を正確に狙う。
金属の体が一瞬震え、機械の動きが乱れる。
心拍が加速し、呼吸が呼応する。
視界の中心には光る水晶のみが映り、余計なものは消える。
「これが、俺の研ぎ澄まされた感覚……!」
全身の神経が木刀を通じて敵に届くように意識を集中。
ノラの体が宙を滑り、次の一撃に向けて完璧な姿勢を取った。




