第105話 答え合わせ
図書室の静寂は、微かな紙の擦れる音とクロの呼吸だけが支配していた。
目の前には、古文書の束が並ぶ。
クロは息を整え、改めて問いに向き合った。
二重の山の意味
「外界から隔絶……ただ守るためだけじゃない」
クロは旅の記憶を辿る。
白く切り立った石灰岩の外山は、都市を外敵から守る壁として機能していた。
しかし内側の黒い花崗岩の山は、単なる防御では説明できない。都市を抱き、内部の秩序を守るかのようにそびえ立っていた。
そして、山の上を自由に舞う鳥の群れや、天井から吊るされた光を集める水晶のルーン――それら全てが空族の生活、自然との共生、そして誇りの象徴だとクロは理解した。
メモ用紙に図を描き、山の構造と空族の精神を結びつける。
結論:二重の山は都市を守るだけでなく、空族の文化・誇り・未来を守るために築かれた。
王への忠誠
この2つ目の問いは王に対する忠誠の意味。
「忠誠……権力の維持? いや、違う」
クロは書物と旅の経験を慎重に照合する。
空族の儀式や掟は、単なる形式ではなく、王と民の未来をつなぐ象徴だった。
トヒの保護や都市の統率は、忠誠を通して共同体の秩序と誇りを維持する手段であり、
王への誓いは、空族自身が守るべき価値を未来に託す契約である。
ペンを走らせ、思考を整理する。
結論:忠誠は従わせることではなく、尊厳を保ちつつ信頼を築くこと。権力維持ではなく、空族の誇りと未来を守る誓いである。
トヒを守る意味
最後に、トヒの存在意義を考える。
「トヒ……ただの生物じゃない事は俺達はタロとイヴと出会い理解してる。空族は、何故トヒを保護するのか?」
クロは旅の場面を反芻する。
各都市で見た生命の営み、空族がハコニワとは別に保護するトヒ……メインは保護種。
紙の上に思考を整理する。
トヒの育成は空族の精神を養う――命を尊ぶ心、空族としてナチュラビストとして弱きを助け命を繋ぐことに繋がり、誇りと夢を未来に託す意志の象徴。
トヒを守ることは、単なる保護ではなく、かつての人類も龍を信仰していた種族が居たように、尊い存在を未来へつなぐ行為でもある。
空族の文化、歴史、誇りはトヒの育成によって深まる。
他のナチュラビストと違い、トヒを食用としているが、命の扱い方に感謝を忘れてはいない。
結論:トヒを守ることは、空族が自らの精神と文化、そしてナナシの世界、住まう星への責任を守り全うすることを意味している。
クロは深く息を吐き、全ての答えを文章にまとめた。
すると、ナイトが近づき静かに微笑む。
「よくやった……理解した者のみが進むべき道を開いた」
クロは拳を握りしめ、心の奥で次の決意を固める。
図書室を後にしタロとイヴと合流しすると
2人は安堵の表情で見守っていた。
「流石クロ!突破できたんだね!」とタロとイヴはクロにハイタッチした。
クロは微笑み、深く頷く。
「うん……答えを導き出した。これで俺は、空族の誇りも、未来も理解した」
クロはタロとイヴと一緒に、ノラとミロを信じて帰りを待つのだった。




