第100話 深淵に蠢く鱗
海底都市アトラの余韻を胸に抱きながら、ノラたちは浮上の旅路を進んでいた。
潮風が頬を撫で、太陽の光が波間に反射し、まるで祝福のように輝いている。
「……ここからが、本当の始まりだな」
ノラは義手にヒトフリを握りしめ、仲間を見回した。
クロは静かに頷き、低く言葉を重ねる。
「兄の死の真実……空で答えを掴む」
タロは拳を掲げ、少年らしい声を弾ませた。
「僕は夢を探し続ける! もっと大きな夢を見つけてみせる!」
イヴはその隣で柔らかく微笑み、静かに呟く。
「……夢がある限り、未来は消えない」
ミロもまた、凛とした眼差しで一行を見つめた。
「皆と共に歩む――それが、私の選んだ道」
それぞれの想いを抱きながら、一行は風に背を押され、次なる地――天空に近い山脈地帯「エアー」を目指す。
その瞳には確かな光が宿っていた。
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だがその一方で、濃霧に覆われた湿地帯。
黄金の瞳をぎらつかせる大蛇の影――ナーガが鎮座していた。
その周囲には数百のトヒが鎖に繋がれ、恐怖に震えている。
ナーガの黄金の瞳が怪しく光る。
「……モサ、プリオサウルス、そしてフンケイ。
古の海を支配した覇者たちが蘇れば、ジークもアトラの民も抗えぬ。
海は再び捕食者の王国となる」
背後で控えるコドラが拳を打ち鳴らす。
「なるほど……海族の兵とて、伝記に刻まれた顎の前ではひとたまりもない。
アトラは守る術を失い、夢ごと飲み込まれるだろう」
ナーガは長い尾をゆらめかせ、湿った空気を舐めるように笑った。
「夢を語る愚か者どもに、古代の現実を突きつけてやろう。
“恐竜の時代”を呼び覚まし、アトラを滅ぼすのだ」
鎖につながれたトヒたちの叫びは霧にかき消され、やがて夜の闇に飲まれていった。
その声を糧にするかのように、地の底から不気味な鼓動が響き、湿地全体を震わせていく。
深淵に蠢く鱗は、確実に迫りつつあった。




