第10話 旅立ちの兆し
夜が明け、ヤマトの街に朝の光が差し込む。
ノラとクロは紹介所の受付で、昨日の討伐の成果を報告していた。
チロが笑顔で返礼券を手渡す。
「おつかれさま! はい、これが“レコード”と交換できる券だよ。大事にしてね」
ノラは受け取った券を握りしめ、胸の奥で小さな高鳴りを感じた。
旧時代の音。人類――トヒが残した文化の記録。
それは単なる物ではなく、この世界の謎を解く鍵となり得ると信じていた。
隣でクロが冷静に口を開く。
「政府経由の依頼が増えてきている。……この先は、もっと西へ行くことになるだろう」
ノラは小さく頷いた。
「昨日、郊外の農場で見たトヒの姿……あれを忘れるわけにはいかない。
きっと俺たちの行く先に、まだ答えが眠ってる」
チロが机に身を乗り出した。
「二人とも、気をつけてね! ……ノラ、それからクロ兄。シロ兄のことも……」
その言葉に、ノラとクロは一瞬だけ視線を合わせた。
互いの胸に重く響く名。
シロ――。
戦場で命を落とした、ノラにとっては“幼馴染で戦友”。
そしてクロにとっては、年齢差を越えて“父のようで憧れの兄”だった存在。
あの日から十年。
未だ真実は闇の中にある。
ノラは義手を握りしめ、クロは拳を固く握った。
「……必ず、確かめる」
二人の声は同時に重なった。
広場に立ち、彼らは街の外へ続く道を見上げた。
統一戦争からわずか十年。
世界がまだ揺らいでいるこの時代に、二人の旅は始まろうとしていた。
――これは、後に語られる大きな変革の始まりである。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
本作 『ナナシのトヒ 〜ナチュラビスト〜』 は、片腕の猫族ノラと兄を失い真実を探す犬族クロを中心に、「夢は幻か、それとも未来を照らす光か」をテーマに描いています。
序盤の10話で描いたのは、この世界の成り立ち、そしてノラとクロが旅立つまでの物語。
ここから先、仲間との出会い、種族の思惑、そして“想いの形”が少しずつ姿を現していきます。
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