第1話 カミの呟き
「……楽園の頃とは変わってしまった。
人間たちは、忘れてしまったのだ」
声だけの存在――「カミ」はそう呟いた。
それは風のざわめきのようでもあり、大地の軋みのようでもあった。
誰に向けて放たれた言葉なのか、誰も知らない。
だが、その響きは星そのものを震わせるように、確かに世界へと刻まれていった。
かつて人類は文明と技術を進歩させ、この星の頂点に立った。
初めの頃の人々は博愛の心に満ち、互いに助け合い、慎ましい幸福を見いだしていた。
けれど――物が増え、生活が豊かになるほど、欲望も際限なく膨れ上がっていった。
「資本主義」の名のもとに、同族でありながら金のために争い、騙し合い、欺き、ついには命さえも奪い合うようになった。
祖先の教えは風化し、愛も信仰も消え、残ったのは傲慢さだけだった。
やがて世界は混沌に包まれた。
「現世こそ地獄」と叫ぶ者が現れ、その声に共鳴する者は増え、自ら命を絶つ者さえ急増した。
その行為を嘲笑する者が現れた時――人間はすでに、人間であることをやめていたのかもしれない。
新しい物を求めては飽き、捨て、繰り返す。
その果てに、自らの住む星すら壊していくことに、人々は気づこうともしなかった。
そして決定は下される。
「……次は、“君たち”に託そう」
カミはそう告げ、人類を見捨てた。
最初の異変に気づいたのは、ごく一部の人間にすぎなかった。
だが大半の人々はそれを笑い飛ばし、日常に埋もれ続けた。
気候は変動し、自然災害は増え、生態系は静かに、だが確実に変化していった。
それでも人は争いと金に溺れ続けた。
そして――。
「カミ」に選ばれた生物たちが、人の形を帯び始めた。
彼らは人類と同等の知性を与えられ、やがて「ナチュラビスト」と呼ばれる存在となった。
こうして――星は“人の時代”を終え、新たな時代へと歩み始めた。