ゴールまであと――
ゴールまであと3メートル。
床に落ちたときに左肩の関節がこわれたせいで左腕が動かせず、うまくからだのバランスが取れない。
足首のボールジョイントだってゆるゆるで床をうまく蹴ることができない。
けどあきらめるわけにはいかない。
どんなに痛くても、のばせる腕があるならゴールに向かってのばしてやる。
走れる脚があるなら、未来にむかって足掻き続けてやる。
(あきらめるわけにはいかないんだ!)
そう何度も自分にいい聞かせて、ヒロムは走り続けた。
ゴールまであと1メートル。
うしろを見ると、すぐそこまで黒い煙がせまっている。セイジはすでに煙に飲みこまれて見えない。
ボロボロのからだは、いつこわれてもおかしくない。
それでもヒロムは、ゴールを目指して走り続けた。
ゴールまであと30センチ。
脚を動かすたびにひざの関節パーツがビキビキと音をあげて、電気のような痛みが全身を駆けめぐる。
バキッ!
右足首のジョイントが折れて、ヒロムのからだが前方にたおれた。
(ぜったいにあきらめるもんか!)
ヒロムはすぐに立ちあがり、片方の脚で跳ねながら前に進んだ。
ゴールまであと20センチ。
追いついた煙が、ヒロムのからだをつつみこんだ。
視界がまっくらになり、意識が途絶えそうになる。
ダメだ、ダメだ、ダメだ。
ここでたおれちゃダメだ!
「うおおおお!」
意識を保とうとして、無我夢中でさけぶ。
そして煙をかき分け、前に向かって飛び跳ねた。
ゴールまであと10センチ。
煙の中から頭を出すと、目の前に全開の自動ドアが見えた。
ぜったいゴールするんだ。ぜったいあそこにたどりつくんだ。
ドアに向かって手をのばそうとした瞬間、ふたたび煙がヒロムをつつみこんだ。
ゴールまであと――ゴール?
ゴールってなんのことだ?
ここはどこだ? おれはだれだ?
ああ、ダメだ。
頭がボーッとして、何も考えられない。
けど、前に進まなくちゃいけないことだけはわかる。
なんのために? わからない。
だけど、おれはまえに進まなくちゃいけない。
進め。進め。進め。
頭の中で自分がそう叫び続けている。だからおれは前に進まなくちゃいけない。
(前に……前に進むんだ……)
すべての力を右腕にこめて、前に突き出す。
その瞬間、彼のからだは煙の中で消滅した。
(つづく)
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