走れ、ヒロム
そのとき前方の十字路からRC( ラジオコントロール)カーが飛び出してきた。
銀色のボディに丸いヘッドライト。そして「JB007」のナンバープレート。
それは有名なスパイ映画に登場するスパイカーだった。
ふたりの前を走るスパイカーはナンバープレートを回転させて3つのノズルを出すと、床にオイルをまき散らした。
(あぶない!)
いそいでブレーキペダルを踏んだけど、オイルですべってカートがとまらない。
セイジはハンドルを切ることで、なんとか体勢を立て直そうとしたが、間にあわず野菜の陳列棚に激突。
ヒロムのカートもリンゴの木箱にぶつかり、その衝撃でからだが宙に投げ飛ばされた。
床に落ちると――グシャッ。
肩と腕をつなぐボールジョイントにヒビが入った。
スパイカーはヘッドライトでヒロムを照らすと、ボンネットを開けた。
車内からあらわれたのは6連装ミサイルランチャー。
スパイカーはオイルだけじゃなく、映画同様、武器も搭載していたのだ。
(まずい!)
ヒロムはいそいで横へ跳んだ。
バキッ!
着地した衝撃で、今度はひざの関節パーツにヒビが入る。
その直後にスパイカーがミサイルを発射。
ミサイルはヒロムのわきを通りすぎ、背後にあったカートに命中。大爆発をおこした。
もう一度、スパイカーがヒロムにミサイルを撃ちこもうとしたとき、
「ヒロムー!」
セイジが猛スピードで煙の噴きあがるカートをスパイカーの横っ腹にぶつけた。
★ ★ ★ ★ ★ ★
その衝撃で、すべてのミサイルがボンネットの中で爆発。
ダメージでスパイカーは消滅し、爆発にまきこまれたセイジのカートも大破した。
「セイジ!」
ヒロムはいそいでセイジに駈け寄った。
爆風によって、セイジはカートの破片と一緒に通路に吹き飛ばされていた。
「大丈夫か、セイジ!」
セイジは背中を丸めて、両手を下半身にのばしている。
だが、彼の指の先には触れるものが何もない。
「セイジ、おまえ、脚が……」
両脚ともひざから下がないセイジを見て、ヒロムは息をのんだ。
セイジの脚パーツは爆発によって吹き飛んでしまったのだ。
「走れ……」
腕の力で上体を起こすと、セイジはヒロムの肩をつかんだ。
「走れ、ヒロム。おまえが走ってゴールしろ」
痛みのためか、セイジの顔は歪んで見えた。
「おれはヤマトが焼いたお好み焼きを食いたい。サトミのライブにも行きたい。エイルの話を聞いて、プラモづくりにもちょっと興味を持ったから、プラモもつくってみたい」
「セイジ、おまえ何を――」
「たとえ脚が動かなくたって、おれにはやりたいことがたくさんある。これからやってみたいことがたくさんあるんだ」
「セイジ……」
「だから未来を守ってくれ。おれの――みんなの未来を守ってくれ」
肩をつかむ指に、セイジが力をこめる。
「走れ、ヒロム。おまえにはまだ走れる脚があるだろ」
それにこたえるように、つくりもののからだに力が湧きあがってきた。
みんなの未来を守りたい。
その想いが湧きあがる力の正体だった。
「セイジ、みんなと未来で待っててくれ。おれ、ちょっと地球を救ってくるよ」
「ああ、地球人のすごさを宇宙中に見せつけてやれ」
ふたりでこぶしを突きあうと、ヒロムはゴールに向かって走り出した。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




