ファンの役目
出だしは4人とも好調だった。
大理石のコースは広くて障害物もないので、すいすいと進むことができる。
おもちゃのゴーカートだから本物のクルマほどスピードは出ないけど、これなら5分ぐらいでゴールの北出口まで行けそうだ。
イベントホールをぬけて、一本道を走っていたときだ。
「エネミードライバーのお出ましだぞ」
サイドミラーを見ると、うしろから3つのコマが回転しながら、こちらにせまってきていた。
「みんな、気をつけて。あれ、スピンキャリバーだよ」
ハンドルについたスピーカーからエイルの声が聞こえた。
スピンキャリバーとは、パーツをカスタマイズしてたたわせるコマ型おもちゃのことだ。
スピンキャリバーがヒロムのカートの横に並んだ。
「気をつけろ、ヒロム!」
並走していたセイジがさけんだ。
となりを見ると、セイジのカートの横にもスピンキャリバーが並んでいる。
2つのコマが一瞬、カートからはなれた。
と、つぎの瞬間、息をあわせてカートの側面に突進してきた。
「セイジ!」
「わかってる!」
ふたりはアクセルペダルを踏みこんだ。
ブオオオオオオン!
本物のようなエンジン音をひびかせて、2台のカートがスピードをあげる。
ぶつかる寸前にカートに逃げられて、スピンキャリバー同士が激突。
衝撃でパーツがはじけ飛び、光の粒子になって消滅した。
「やったな、ヒロム」
セイジが腕をあげた。
「おまえ、おれの考えてること、よくわかったな」
「あたりまえだろ。何年、一緒にいると思ってんだよ」
そのとき、スピーカーからサトミの悲鳴が聞こえた。
見ると、サトミのカートのすぐ近くにスピンキャリバーがせまっていた。
「宝木さん、逃げて!」
その瞬間、サトミのカートとスピンキャリバーが衝突。
車体から火花があがった。
スピンキャリバーが2度目の攻撃をしかけようとしたとき、
「サトミちゃんから、はなれろー!」
最後尾を走っていたエイルがスピードをあげて、自分のカートをスピンキャリバーにぶつけた。
バランスを崩してグラつくスピンキャリバー。
そこへエイルがトドメの一撃!
もう一度カートをぶつけて、スピンキャリバーを弾き飛ばした。
「エイル、大丈夫か!」
ヒロムとセイジはUターンして、エイルのもとへ向かった。
サトミもカートを停めて、エイルのもとへ走る。
スピンキャリバーは消滅したが、ぶつけたショックで、エイルのカートは動かなくなっていた。
「ごめんなさい、エイルちゃん。わたしを助けるために……」
「気にしないで。推しを守るのがファンの役目でしょ」
はげますように、エイルが笑いかける。
「みんな早く行って。グズグズしてたら煙に飲みこまれちゃうよ」
「でも――」
「ぼくのことは大丈夫。だから先に行って」
エイルがサトミをカートのほうへ押した。
「行くぞ、サトミ」
セイジがカートのエンジンをかける。ヒロムも黙ってエンジンをかけ直した。
そのとき南出口の自動ドアが開いて、黒い煙がモールの中に流れこんできた。
「エイルちゃん、今度いっしょにプラモデルをつくりましょうね」
「うん。約束だよ」
エイルと指切りをすると、サトミはいそいでカートへもどり、発進させた。
★ ★ ★ ★ ★ ★
3人の運転するカートが、どんどん自分からはなれてゆく。
それをエイルは、動かなくなったカートのとなりで見つめていた。
「みんな、あとはまかせたよ」
うしろをふりかえると、黒煙はすでにエイルのすぐ近くまでせまっていた。
けど、ふしぎなことに恐怖は感じなかった。
ゲームオーバーまちがいなしの絶望的な状況なのに、なぜか心は落ちついていて、震えのひとつもおこらない。
むしろ、しっかりと床を踏みしめることで、煙に立ち向かおうとさえ思えた。
おまえなんか怖くないぞ!
ぼくはここでおわるけど、ぼくの仲間がかならず未来をつかみ取ってくれる。
だから、おまえなんかぜんぜん怖くないぞ。
真っ黒な煙がうねりをあげて、大蛇のようにエイルを飲みこむ。
その瞬間、エイルの意識とからだは煙の中で消滅した。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




