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守りたいもの

「ビジネスパートナー……。それって、つまり、わたしたちがジョーイさんと一緒にお仕事をするということですよね?」

 サトミがたずねる。

「そのとおり。けど仕事といっても、そんな難しいものじゃない。きみたちはただ、ぼくの動画に出てくれればいいんだ。いまと同じようにね」

「それは、もう一度トイ☆ウォーズに参加しろということですか?」

「そうじゃないよ。ヒロムくんには話したけど、ぼくはトイ☆ウォーズ以外の動画もたくさん撮ってるんだ。宇宙怪獣のたまごで目玉焼きをつくったり、水の惑星の海をメロンソーダに変えたり、そんなエキサイティングな動画をきみたちと一緒に撮りたいんだよ」

 大げさなジェスチャーをまじえながら、ジョーイが熱っぽく語った。

「仕事だから、もちろん報酬は出すよ。もし、ぼくのビジネスパートナーになってくれたら、きみたちの願いをなんでも叶えてあげよう」

「願いを叶える?」

「そうとも。やりたいことでも、なりたいものでもいい。ぼくがきみたちの願いを何回、いや何百回でも叶えてあげよう」

 そこでジョーイは、こどもたち一人ひとりに誘惑ゆうわくの言葉をかけはじめた。


「セイジくん、もう一度自分のあしで歩きたくないかい?」

「サトミくん、ダイヤモンドの惑星で大勢のファンを相手にライブをしたくないかい?」

「エイルくん、宇宙にはきみと同じ趣味の人が、ごまんといるんだ。ぼくと一緒に動画できみのコレクションを彼らに紹介してあげようよ」


 そして最後に、

「ヒロムくん、いろんな星をめぐって、そこに住む人とサッカーをしようじゃないか」


 その言葉は、まるでクモの巣のようにヒロムの心にまとわりついた。

 ジョーイの動画に出れば、サッカーを続けることができる。しかも舞台は宇宙だ。

 宇宙人とのサッカーなんて、メッシやネイマールでさえしたことはないだろう。

 日本代表どころか地球代表選手として、(ばん)ヒロムの名前をサッカー史にのこすことができるのだ。

「地球はどうなるんですか?」

 うつむきながら、ヒロムはたずねた。

「もし、おれたちがあなたのビジネスパートナーになったとして、地球はどうなるんですか?」

「もちろんぼくが侵略するよ。でも心配しないで。ほかの人間は気分次第で消すこともあるけど、きみたちを消したりなんてしないから」

 ジョーイが画面の外からポテトチップスのふくろを引きよせた。

「ビジネスパートナーになる方法はかんたん。いまここでリタイアしてくれるだけでいいんだ。不満だらけのきゅうくつな未来を選ぶか、それとも好きなことを好きなだけできる未来を選ぶか。迷う必要なんかないと思うけどなぁ」

「そうですね。迷う必要なんてありませんね」

 ヒロムは巨大なジョーイの顔を見あげた。

「ジョーイさん、つぎにするゲームの説明をしてください」

「ん? ゲームの説明?」

「おれたちはセカンド・ラウンドをクリアした。だからつぎにするゲームの説明をしてください」

 ジョーイの手からポテトチップスのふくろが落ちた。

「ああ、ええと……それは……その……」

 ジョーイは言葉を詰まらせながら、そわそわと両手を()んだ。

「き、きみたちは、このままゲームを続けるということかな?」

「はい、そうです」

「それはつまり、ぼくのビジネスパートナーにはならないということかな?」

「はい」

「でも、ぼくと組めば――」

「おれが守りたいのは自分の未来だけじゃない。地球に住むみんなの未来です」

 ヒロムはジョーイをにらみつけた。

「おれはトイ☆ウォーズを制覇せいはする。そして母さんにつたえる。サッカーを続けたいって気持ちを、ちゃんと自分の口で母さんにつたえるんだ」

 その言葉に、セイジが目を見張る。

「ヒロム、おまえ……」

「いやー、引退するなら、やっぱ最後は練習じゃなくて試合だよな。だからさ、あの言葉なかったことにしとくよ」

「ったく……そんなことだろうと思ったぜ」

 セイジがあきれたように肩をすくめた。

 けど、ニヤける顔はうれしさで満ちあふれていた。

「そ、そうだ。いいことを思いついた。ヒロムくん、ぼくがきみのお母さんの心をあやつって、熱烈なサッカーマニアに変えてあげるよ。そしたら、きみはサッカーを続けることができる。だから――」

「ジョーイさん」

 ヒロムはジョーイの言葉をさえぎった。

「おれはあなたのおもちゃじゃない。自分の未来は自分で決めます」

「そうだな。自分の未来ぐらい自分で決めないとな」

 セイジがヒロムのとなりに並んだ。

「たとえ脚が動かなくたって、おれには手があるんだ。この手で未来をつかみ取ってみせるさ」

「残念ですが、いまのわたしでは、みんなをたのしませるようなライブはできません。だから宇宙進出は、アイドルとしての実力と人気をそなえてからにします」

「ぼくもだよ。好きなものを宇宙中につたえるなら、まずは胸を張って『おもちゃが好き』っていえるようにならなくちゃね」

 エイルが胸に手をあてた。

「だから動画配信は自分の力でやってみるよ。チャンネル名は〈エイルのおもちゃ箱〉。 どう? いい名前でしょ」

 モニターのジョーイに向かってウインクすると、エイルは天井に声をはりあげた。

「トイ☆ウォーズをごらんのみなさ~ん。〈エイルのおもちゃ箱〉は地球限定配信になりま~す。宇宙配信の予定はないので、見たい人は各自でなんとかしてくださ~い」

 そして4人は横一列に並んだ。

「おれたちは、だれひとりリタイアなんてしません。このままゲームを続けます」

「…………すこし待ってくれ」

 ジョーイはポテトチップスのふくろに手をつっこむと、


 バリバリバリ! バリバリバリバリ!


 ものすごい勢いでポテチを食べはじめた。

 まばたきもせずにポテチを食べるジョーイは、まるで人型ひとがたシュレッダー。

 あらい鼻息が、こちらにまで届いてきそうだ。

「こうしてポテチをやけ食いするのが、ぼくの心の整え方なんだ」

 油まみれの指をスーツになすりつけると、ジョーイは肩を大きくまわした。

「人生はトラブル&アクシデントの連続だもんね。まさかの展開にあせったけど、もう大丈夫。いまからファイナル・ラウンドの説明をはじめよう」

 ファイナル・ラウンド。

 最後のゲームを意味する言葉に、4人はこぶしを強く握りしめた。


(つづく)


更新は毎日おこなう予定です。

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