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仲間

 目を開けると、そこにはおもちゃのたなが高層ビルのようにそびえ立っていた。

 ヒーローの変身ベルトに動物のぬいぐるみ。

 自分が小さくなったからだろうけど、棚のおもちゃはすべてがジャンボサイズ。

 どうやらここは、おもちゃショップのようだ。


「……ヒロム?」

 不意ふいに名前をよばれて、ヒロムはうしろをふりかえった。

そこにはヒロムと同じように、からだをフィギュアに変えられた4人のこどもがいた。

「ヒロム! やっぱりヒロムか!」

 ひとりの男の子が、ヒロムに近づいてきた。

 イケメンりょくの高い切れ長の目に、キリっと上を向いた凛々(りり)しいまゆ

 それはヒロムのともだちの()(みや)セイジだった。


「ヒロム、どうしておまえがこんなところにいるんだ」

「そんなの、おれのほうが聞きたいよ。夕食とってたら、いきなり待機空間たいきくうかんとかいうヘンな場所に飛ばされたんだ。それより、おまえ――」

 視線が勝手にセイジのあしにうつる。

 こんなわけのわかんない場所でともだちに会うのもおどろきだけど、それよりもヒロムがおどろいたのは、セイジが自分の脚で〝ふつう〟に立っていることだった。

 だって、セイジの脚は……。


「あの、おふたりは知り合いなんですか?」

 遠慮えんりょがちにたずねたのは、中学2~3年生ぐらいのお姉さんだった。

 あざやかな水色の衣装を着て、フリルつきミニスカートをはいたすがたは、まさにアイドル。

 彼女のまわりだけ景色がキラキラと輝いて見えた。

「もしかしてアイドルの方ですか?」

 思わず、ヒロムはたずねてしまった。

「え? あ、はい……一応は」

 お姉さんはあいまいな返事をすると、気まずそうに顔をそむけた。


「みんなに紹介しとくぞ。こいつの名前は(ばん)ヒロム。ビクトリーズっていうサッカーチームのキャプテンをしている、おれのともだちだ」

 セイジが説明する。

「キレイな顔してるから、よく女子とまちがわれるけど、れっきとした男だ」

「いや、その説明いらないだろ……」

「ええ! ウソ、きみ、男だったの!?」

 おおげさにおどろいたのは、がっしりとした体格の男の子だった。

「なんてな。ジョーダンだよ、ジョーダン。けどキレイな顔ってのはほんとのことだぜ」

 男の子がいたずらっぽく笑って、ヒロムの肩をたたいた。

 もちろん彼もフィギュアだけど、ヒロムより一回り大きな腕は、みっちりとふくらんだ筋肉の質感まで再現されていて、本物みたいだ。

「とりま、自己紹介な。おれは青島(あおしま)ヤマト。そんで、こっちのアイドルの子が(たから)()サトミ」

(たから)()サトミです。よろしくお願いします」

 サトミがお辞儀(じぎ)する。

「で、サトミのとなりにいるメガネをかけた女の子が長谷川(はせがわ)エイル」

「は、長谷川(はせがわ)エイルです。よろしく……」

 エイルがメガネに手をあてて、緊張気味きんちょうぎみにあいさつした。

 (とし)は10(さい)ぐらいだろうか。5人の中で一番背が低いけど、脚が長くてショートパンツが似合っている。

「ジョーイって人が、ゲームのことはタブレットをとおして教えてくれるっていったんだ。けど、まだ何も連絡がなくて……」

 エイルが持っていたタブレットをみんなに見せた。


 4人が暗い画面をのぞきこんだとき、

「やあ、みんな、自己紹介はおわったかい?」

 タイミングを見計らったように、画面にジョーイの顔があらわれた。

「いまからゲームの説明をするから、ぼくの話をよーく聞いてね」

「よーく」の部分を強調するように、ジョーイが人さし指をまわした。

「まずはきみたちがいる場所について説明しよう。いま、きみたちがいるのは――」

「トイパレス!」

 エイルがさけんだ。

 トイパレスは世界中で有名なおもちゃショップの名前だ。

「そのとおり。もっとも、そこは本物のトイパレスじゃなくて、ヴァーチャル・トイパレスだけどね」

「ヴァーチャル・トイパレス?」

「ゲームで使うエリアは、すべてぼくが超能力でつくりあげたものなんだ。実際のトイパレスだと、棚も通路もフィギュアには大きすぎるからね。だから、すこしだけサイズを小さくして、つくってあるんだよ」

「ジョーイさんって宇宙人ですよね? どうして宇宙人がトイパレスを知ってるんですか?」

「侵略する星のことを調べるのなんて、あたりまえのことだよ。それに、その星の歴史や文化をゲームに取り入れると、再生数がぐーんとあがるんだ」

 ジョーイが得意げに説明した。

「話が()れたからもどそう。このトイパレスには、きみたちを狙うソルジャーとよばれるおもちゃがいる。ゲームの制限時間まで、だれかひとりでもソルジャーから生きびることができれば、きみたちの勝ち。全滅すればきみたちの負けだ。OK?」

 ジョーイがみんなの顔をみまわす。

「これが、きみたちがファースト・ラウンドでおこなうゲームだ。名付けて『ソルジャー・サバイバル』! ゲームの制限時間は15分。ソルジャーの数は時間とともに増えるから注意してね。それじゃあ、ゲームスタ――」

「あ、あの!」

 とつぜん、アイドルのサトミが手をあげた。

「さっきジョーイさん、ソルジャーがわたしたちを狙ってるっていいましたよね? もしソルジャーにやられたら、わたしたち……その……」

 声がどんどん小さくなり、ついにサトミは口をつぐんだ。


 ソルジャーにやられたら、わたしたち死ぬんですか? 


 サトミがそういおうとしているのは、みんなわかっていた。

 そして、その言葉をためらう気持ちも理解できた。

 もし口にすれば、死の恐怖が津波のように心に押し寄せてくる気がしたからだ。

「サトミくん、これはゲームだよ。たとえソルジャーにやられたとしても、きみたちの命はなくなったりしない」

「え? じゃあ、やられても、あの世に行くわけじゃないんですね?」

「もちろんさ。きみたちのたましいはゲームオーバーと同時にぼくの手元にもどるようになってるんだ。ゲーム中はコンティニューできないけど、あとでちゃんと元のからだにもどしてあげるよ」

「よかった……」

「だけど安心しすぎると痛い目を見るよ。ゲームとはいえ、感じる痛みはすべて本物だからね。たましいのある胸を破壊されでもしたら……ああ! 考えただけで恐ろしい」

 ジョーイが、おおげさにからだを震わせた。

 それを見たサトミが顔をしかめたのはいうまでもない。


「ワクワクとほどよい緊張感。それこそがゲームをたのしむためのコツだよ。さて、それじゃあゲーム開始といこう。きみたちの健闘を祈ってるよ」

 ジョーイの顔が消えて、タブレットの画面が暗くなった。

「おっと、忘れるところだった」

 2秒とたたないうちに、ジョーイが画面にもどってきた。

攻略こうりゃくのためのヒントをひとつ。きみたちがするのは鬼ごっこやかくれんぼじゃなくてサバイバルゲームだ。それがどういう意味か考えてごらん。そうすれば、みんなが生きのこれるかもしれないよ」

 ウインクをのこして、画面から消えるジョーイ。

 その直後に、


「ゲーム、スタート!」


 店内のスピーカーから、大音量でジョーイの声が聞こえた。

「あんなふざけたやつに地球を侵略されてたまるかよ。たった5年かもしれないけどよ、おれたちで地球の未来を守り抜こうぜ」

 ガタイのいいヤマトが平手にこぶしを打ちつけた。


 正直、いまでもこれが現実のことだとは思えないし、やったことのないサバイバルゲームで生きのこる自信もない。

 けど、こうなった以上やるしかない。そしてやり()げるしかない。

 なぜなら地球の運命は自分たちにかかっているのだから。

(そうだ、やり()げるしかないんだ)

 心に(かく)()の火を(とも)すと、ヒロムはこぶしを握りしめた。


 このとき5人はまだ気づいていなかった。

 自分たちのすぐ近くに、ソルジャーの黒い影がせまっていることに。


(つづく)



更新は毎日おこなう予定です。

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