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白い世界と侵略者 

 こんにちは、犬山おはぎです。

 この物語を書こうと思ったきっかけは、とあるおもちゃショップに入ったときに、

(ここのおもちゃたちは夜になると勝手に動いて、ひそかにおもちゃ同士で戦っていたりして)

 なんて妄想をしたことです。


 連載期間は1か月ほどになりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

「これ、ぜったい夢だよね」

 自分の腕を見ながら、ヒロムはひとりごちた。

 そうだ。これは夢だ。夢に決まっている。

 じゃないと、8の字の関節かんせつパーツがひじに埋めこまれているはずがない。


「なんで、おれ、フィギュアになった夢なんて見てるんだろ」

 360度まわすことのできる頭に服と一体化したボディ。

 腕だけじゃなく、ヒロムはからだそのものがフィギュアに変化していた。

(夕食のときに寝たら、母さん、なんていうかな……)

 よく女の子とまちがわれる顔をしかめて、ヒロムは空を見あげた。

 まっしろな空には太陽も雲もない。

 白一色の世界には自分以外なにも存在していなかった。


「ヒロムくん、これは夢なんかじゃないよ」

 とつぜん、どこかから声がした。

「きみがいるのは夢の世界じゃなくて、待機空間たいきくうかんっていう時間のとまった特別な空間なんだ。ちょっと待ってね。いま、ぼくのすがたを見えるようにするから」

 その直後に、信じられないことがおこった。

「うわああああ!」

 とつぜんあらわれた〝それ〟を見て、ヒロムは尻もちをついてしまった。

 でも、それはしょうがない。

 いきなり目の前に2階建ての家ほどもある超巨大テレビがあらわれたら、だれだって、尻もちぐらいつくだろう。

 そして、テレビの画面に映っていたのは……えっ、ネコ!?


「おっと失礼。映す画像をまちがえた」

 すぐに画面がネコから30(さい)ぐらいの男性に変わった。

 ビシッとした紺色こんいろのスーツに、高級(たか)そうなメタルフレームのメガネ。

 画面の男は、ドラマなんかでよく見るエリートサラリーマンそのものだった。

 もっとも、ポテトチップスのふくろを(かか)えるサラリーマンなんて見たことないけど……。


「まずは自己紹介だね。ぼくの名前はジョーイ・シンドー。好きな食べ物はポテトチップス。きみの住む宇宙とはべつの宇宙からやってきた惑星アルスの住人だ。さっそくだけどトイ☆ウォーズに――」

「あの!」

「?」

「……何いってるか、ぜんぜんわかりません」

「わからない? そんなはずはないよ。リアルタイム翻訳機ほんやくきはちゃんと作動してるもの」

「そういう意味じゃありません。おれ、いま、自分の身に何がおきてるかわからないんです。だから、べつの宇宙とかいわれても、何がなんだかわからなくて……」

「なるほど。つまりきみはいま自分が置かれている状況を理解できていないということだね。わかった、きみの身におきたことを、ぼくがすべて説明してあげよう」

 そういって、ジョーイはポテトチップスを5枚もつまんで口に入れた。


 バリバリバリ。


 待機空間にポテチをほおばる音がひびきわたる。

「さっきもいったけど、これは夢じゃない。とまった時間の中でおきている現実のことだ。まずはこれを理解してもらいたい」

「……はい」

 こたえたものの、ジョーイのいうことはまったく理解できない。

 けど話を進めるためにも、とりあえずわかったふりをしておこう。


「つぎになぜ、12(さい)のきみが12センチのフィギュアになったのかを説明しよう。それは、ぼくがきみをフィギュアに変えたからだ」

「変えた? 変えたってどういうことですか?」

「ぼくたちアルス人は超能力を持っている。ぼくはその力を使って、きみをフィギュアに変えたんだ」

「なんのために?」

動画どうがを撮るためさ。ぼくの職業は動画配信者どうがはいしんしゃ。地球人にはミーチューバーといったほうがなじみぶかいかな」

 ジョーイが手を動かすと、テレビ画面に宇宙空間が映し出された。


「宇宙はひとつじゃない。さまざまな次元にたくさんの宇宙が存在している。現在確認されている宇宙の数は2037。そのうちの1893の宇宙にぼくの動画は配信されているんだ。自分でいうのもなんだけど、ぼくは宇宙規模の超人気動画配信者なんだよ」

 画面がポテチを食べるジョーイにもどった。

「『スイーツゾンビハザード』に『サイダーオーシャン・シャークハント』。ぼくが撮った動画はどれも人気だけど、なかでも『トイ☆ウォーズ』はもっとも再生数をかせげる企画なんだ。その目玉企画にきみは選ばれた。どう、光栄こうえいなことだろ?」

 ジョーイはほほえむと、塩のついた指をなめた。


 光栄? 何が光栄なもんか。

 からだをフィギュアにされるなんて、迷惑以外のなにものでもないじゃないか。

 そうさけびたい気持ちをガマンして、ヒロムはたずねた。

「ウォーって、たしか戦争って意味ですよね? なんかすごくあぶない名前ですけど、トイ☆ウォーズって、いったいどんな企画なんですか?」

「トイ☆ウォーズは侵略しんりゃくしようとする星の住人をフィギュアに変えて、ぼくの考えたゲームに挑戦してもらう企画なんだ」

「……いま、なんていいました?」

「ぼくの考えたゲームに――」

「ちがいます、その前です。ジョーイさん、いま、侵略っていいました?」

「うん。いったよ」

「ジョーイさんの使ってる翻訳機ほんやくき、たぶんこわれてます。だって侵略って――」

「すべてをうばって乗っ取ることだろ」

 地球儀ほどもあるジョーイの巨大なひとみがヒロムを見くだす。

「ヒロムくん。ぼくはね、地球を侵略しにきたんだよ」

 つめたく低いジョーイの声が、フィギュアの背中に悪寒おかんを走らせた。


「宇宙法律ではC2ランク以下の惑星は個人で侵略してもいいことになってるんだ。もちろん破壊もね」

 ジョーイが顔の横に手をかかげた。

「惑星侵略なんてかんたんなことさ。やろうと思えば、指を鳴らしただけで地球の生き物をすべて絶滅させることだってできるんだ」

 ジョーイは画面いっぱいに自分の指を映すと、

「でも安心して。そんなことをしたところで再生数はかせげないし、なによりぜんぜんたのしくないからね。〈惑星侵略はたのしく〉。それがぼくのモットーさ」

 ニコッと笑って、ポテチを食べた。

「説明の続きをするよ。プレイヤーの勝利条件は、ぼくの出すゲームをすべてクリアしてトイ☆ウォーズを制覇せいはすることだ。もしプレイヤーが勝利したら、ぼくは5年のあいだ、その星を侵略も破壊もしないと約束するよ」

「もし制覇できなかったら?」

「その星のすべてをぼくがいただく。そして好きなようにつくりかえる」

「そんな……」

「その様子だと、翻訳機はただしくぼくの言葉をつたえているようだね。おもちゃたちがおこなう惑星の未来をかけた壮絶(そうぜつ)なたたかい。だから、ぼくはこの企画にトイ☆ウォーズ(おもちゃの戦争)と名付けたんだ」

 ジョーイが画面越しにヒロムを指さした。

「ヒロムくん、きみがもしゲームをクリアできなければ、地球はぼくのものになる。地球の未来は、きみのその小さな肩にかかっているんだ」


「そんなのおかしいよ!」

 画面を見あげて、ヒロムはさけんだ。

「勝手に人のからだをフィギュアに変えるのもおかしいし、ゲームで星の運命を決めるのもおかしい。ジョーイさんがやってることは、何もかもおかしいよ!」

「はいはい。聞きあきたセリフをいったところで、ぼくの気持ちは変わらないよ。地球の未来を守りたいなら、仲間と協力してトイ☆ウォーズを制覇することだね」

「仲間?」

「今回のトイ☆ウォーズには、(あそ)()()に住む10~14(さい)までの5人のこどもが参加することになってるんだ。つまり、きみには4人の仲間がいるってわけさ」

 ヒロムは頭を360度回転させて、あたりを見まわした。

 けど、待機空間には巨大テレビ以外に何もない。


「その4人って、どこにいるんですか?」

「ほかのプレイヤーなら一足先にゲームエリアにワープさせたよ。本当はこの場に5人全員をあつめてからワープさせる予定だったけど、ちょっとした手違いがおきてね。きみだけ待機空間によぶ時間が遅れてしまったんだ」

 そのとき、

「おっと電話だ。ちょっと、失礼しつれい

 ジョーイがスマホを耳にあてる。

「もしもし……そうか、4人がいるのはA1エリアだね。わかった、最後のひとりをいまからそっちにワープさせるよ」

 ジョーイがもう一度ヒロムを指さした。

「というわけで、いまからきみをゲームエリアにワープさせるよ。ゲームの内容だけど、それはワープしたあとで教えることにしよう」

「ちょ、ちょっと待ってください。まだ心の準備が――」

「それじゃあ、思う存分、トイ☆ウォーズをエンジョーーーイしてね!」

 パチン!

 ジョーイの指パッチンと同時に、ヒロムのからだは金色の光につつまれた。


(つづく)


更新は毎日19時におこなう予定です。

初回は2エピソード投稿します。

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