父が信頼した入婿が、父の死後、豹変。傲慢になって、私をディスりまくり、粗野な男ども相手のお酌を私に強要し、若い娘に入れあげるーーああ、鬱陶しい!こんな男、捨てさせていただきます!
夜の帳が降りた頃ーー。
私、パステル・ダナサイト伯爵夫人は、この静かな時間が好きだ。
自室に籠って机の前に座り、黒髪を後ろ髪に結える。
机の上には48色揃いの色鉛筆が並べられており、それを思い思い思いに手に取る。
それから、スケッチブックに向かって、あれこれ思い巡らす。
どんなデザインが良いだろう?
ドレスや宝石、その他、身にまとう装飾品すべてのデザインを考えるのが、私は大好きだ。
モチーフを得るために、星や月、そのほか、山や海などの大自然から、一本の草花に至るまで、森羅万象に思いを馳せる。
すると、白い紙に向かって、色鉛筆を握った手が、自然とスラスラ動く。
手が動くに従って、次から次へと想いが湧き上がってくる。
配色はどうしよう。
寒暖の色を交えて、色味に強弱をつけたら良いかしら。
そうそう、今度のパーティーには、どんなデザインのネックレスをしようかな……。
そんなふうに、身を飾ることを、あれこれ考えていると、心が満たされる。
ああ、至福の時間ーー。
そんなことを思ってたら……。
突然、荒々しくドアが開いた。
私の夫スニフ・ダナサイト伯爵が、帰ってきたのだ。
男性にしては小柄ながら、引き締まった身体をしている夫は、ことさら大きな足音を立てて階段を昇り、二階にある私、パステルの自室にまで乗り込んできた。
今日も、夫スニフの帰りは遅かった。
赤ら顔で、右手にはワインが満たされた瓶を持っている。
だいぶ酔っているようだ。
「旦那様のお帰りだぞお。
どうして迎えに来なかったんだ!」
夫スニフと結婚したのは、父の勧めによるものだった。
私の実家、ダナサイト伯爵家は、領内に王国有数の鉱山を四つも所有し、鉱石を採掘して王国に貢献していた。
私の父、ドン・ダナサイト伯爵は、屈強な肉体を誇る男だった。
が、鉱山を視察中に落石事故に遭遇し、脚と腰を打ってから、寝たきりになってしまった。
私の母はすでに病没していたので、侍女と私とで介護していたが、私と家の将来を案じた父は、私に婿を取らせようと急いだ。
「他所の貴族家から、何もわからんヤツを婿にするより、我が家の家業に精通した者を婿に迎え入れるべきだろう」
そう言って、紹介されたのが、スニフ・ミラン男爵令息だった。
スニフの実家ミラン男爵家は代々、我がダナサイト伯爵家に仕える頼子の家で、彼の父の代で、準男爵から男爵に陞爵したばかりの成り上がり貴族だ。
祖父の代まで我が家の侍従として働き、先代でようやく鉱山経営に携わるようになったばかりの家柄である。
が、父はスニフを高く評価していた。
彼は労働者を監督する現場監督を束ねる存在で、父ドン・ダナサイト伯爵の右腕として、若い頃から、鉱山経営を補佐してきた。
彼は父から「鉱石の採掘現場を良く掌握する、しっかりした人物だ」と評されていた。
父だけでなく、ドンス男爵やパイ子爵といった四つの鉱山の責任者たちも、スニフを信頼していた。
寝たきりの父を抱える私、パステルにとっては、断りがたい縁談だった。
こうして、私、パステル・ダナサイトは、二十一歳で結婚した。
学園を卒業してから三年後のことだった。
そして新婚初夜ーー。
私より幾分、背が低い夫のスニフは、筋肉質な上半身を露わにしながら、ベッドの上ではにかむように言った。
「旦那様から、
『娘を頼む。慈しんでやってくれ』
と言われました。
大切にします」と。
ところが、結婚してから三年、父、ドン・ダナサイト伯爵が死んだ。
寝たきりになってから六年後、五十八歳の若さだった。
夫のスニフが喪主となって、盛大なお葬式を挙げた。
多くの貴族が参列し、シュタイン王家からも使者が弔問に訪れた。
豪華な参列者に、夫は緊張しながらも、喜びを隠しきれないようだった。
「我がダナサイト伯爵家も、たいしたものだ。
普段、俺は、泥と土に塗れて鉱山と鉱山の間を行き来ばかりしていたから、貴族であることを忘れていたよ」
と、夫は感慨深げに語っていた。
そして、父の葬儀を終えた途端ーー。
夫、スニフ・ダナサイト伯爵の人格が豹変した。
実直で真面目だった夫が、変わってしまったのだ。
突然、連日連夜、仕事仲間と飲み歩き、夜遅くまで家を留守にし、妻である私、パステルに対して、横柄な態度を取るようになった。
「いつも裏方仕事ばっかりで、俺は不満だった。
今こそ、表舞台に立つべきなんだ、俺は。
正統なダナサイト伯爵家当主として!」
帰宅後にも、私にお酌を強要し、酒をあおっては、そう口走り始めた。
どうやら夫は、父の葬儀で喪主を務めているときから、豪華な参列者相手に気後れし続けたのを、根に持っているようだった。
しばらくの間、高位貴族の勧めに従ってパーティーに参加したものの、やはり貴族の紳士、淑女と上手く話ができず、縮こまることしかできなかった。
その事実に、忸怩たる想いがあったようだ。
その結果、上手くパーティー会話をこなす私、パステルに腹を立て、必要以上に、「役立たず」「遊んでばかり」と、夫は私をディスるようになった。
そして、今晩ーー。
仕事仲間を家に呼び込んだこともあって、気が大きくなっているのか、夫スニフは、いつにも増して荒々しい態度になっていた。
「夫の俺は、連日、鉱山労働者を手配し、泥に塗れながら、坑道の中を歩き回っている。
それなのに、妻のお前は絵を描いて遊んでいたり、ドレスを取っ替え引っ替えしてるだけ。
『女子会』と称して自宅に女友達を呼び込んだり、若い者から年寄りまで、男を何人も頻繁にこの部屋に出入りさせているそうじゃないか。
侍女や執事たちが、そう言ってるぞ。
パーティーに参加して、チャラチャラするだけでは物足りないのか?
ふしだらで騒がしい、この金喰い虫が。
俺が稼いだ金を使いまくりやがって!」
ここ最近、耳にタコができるほど聞いた台詞を捲し立てる。
いつもなら、聞き流すところだが、今夜は、そうはいかなかった。
「早くこっちに来い。何をしているんだ!」
顔を赤くして怒鳴りながら、夫は手にしたワイン瓶を放り投げ、代わりに私の大切なスケッチブックを取り上げた。
「やめて!」
私は立ち上がり、スケッチブックを取り戻そうとする。
が、果たせない。
反対の手で、ドン! と壁にまで、私を突き飛ばす。
「返して欲しければ、こっちに来るんだ!」
壁を背にへたり込んだ私は、夫スニフによって、グイッと腕をつかまれた。
いつになく腕力に物を言わせた振る舞いだった。
「痛い、痛い。やめてちょうだい。
早く、そのスケッチブックを返して!
それは、私の大切なものなの」
「うるさい。返してもらえたければ、こっちに来るんだ。
この役立たずの女が!」
夫スニフに引きずられるようにして階段を降り、一階の応接間へと引っ張り込まれた。
応接間には、鉱山の現場監督たちが、十五、六人ほども集まって酒盛りをしていた。
夫が懇意にしている連中だ。
バラン、ドネリ、ベリルなどと名乗る、家名のない平民であった。
「俺がいつもお世話になっている方達だ。
お前も、子供じゃないんだ。
絵を描いて、遊んでる場合じゃないぞ。
お酌くらいしろ。馬鹿が!」
私、パステル伯爵夫人は、ワインの瓶を持たされ、現場監督相手にお酌をさせられた。
スニフはやたらと私に酒のお酌をさせたがる。
彼のイメージでは、お酌をすることが、妻らしい、お客様へのおもてなしなのだろう。
でも、酒のお酌という行為は、絶対、貴族夫人がするようなことではない。
なんのために、何人も侍女を雇っているのか。
貴族家の奥方なら、侍女頭に命じて晩餐の準備をさせることはあっても、まるで街中の酒場のような酒宴を邸内で開催させるようなことはしない。
まして、身分の低い者にお酌をして回るなど、本来、貴族家の当主なら、妻の奥方にさせるはずがない。
なのに、夫のスニフは、自室で自分の時間を楽しんでいた私を強引に引きずり出して、侍女のごとき振る舞いを、部下相手にするよう強要する。
まるで悪夢だった。
現に、応接間の壁際に立つ執事や侍女たちは、悲しそうに眉を顰めている。
若い侍女の中には、涙を溜めている者すらいる。
なのに、夫は彼らの表情に気づきもしない。
夫スニフはダナサイト伯爵家の当主でありながら、視線は常に鉱山での仕事仲間にのみ向けられていたのだ。
夫は、仕事を円滑に運ぶためか、必要以上に、現場監督たちを楽しませようと阿る。
そうした夫の気遣いに付き合うかのごとく、酔いが回った男どもは、私、パステルの顔を見て、ゲラゲラ笑った。
「やあ、これは、これは。
上品で、綺麗な奥方様ですな」
「でも、お酒を注ぐのは、まだまだ下手だ」
「あたりまえだろ。
酒場の女給じゃねえんだぞ。
お酌に手慣れた貴族の奥方様なんて、いるはずねえだろ」
「ガハハ。違いねえ。
伯爵夫人様にお酌していただける日が来るなんて、スニフの旦那がダナサイトのお家に婿入りするまで、考えもしなかったよなあ!」
現場監督たちの歓談に気を良くした夫スニフは、彼らに向かって、乾いた声をあげる。
「おい見てくれよ。
コイツは良い歳して、こんな子供じみた絵を描いているんだぜ!」
私の大切なスケッチブックを掲げて、夫は現場監督たちに見せ始めた。
酔客たちは、節くれ立った指でスケッチブックを掴み上げると、無造作に頁をめくり始めた。
「なんだい、こりゃ?
まるで、小さな女の子が描く『お嫁さんのドレス』じゃねーか!」
「家のガキも、こんな絵、描いてたぞ」
「なんだ、この絵は?
なんかの小瓶か?」
「コッチの絵は、赤や緑の石コロを、白いブツブツが取り囲んでる。
なんだろ?
今度、買うつもりの宝石か何かかぁ?」
男どもは、ゲラゲラ笑い合う。
皆で回し渡されているうちに、スケッチブックはボロボロになっていく。
挙句、髭面の酔っ払いの一人が、
「こんなの!」
と言って、スケッチが描かれたページを何枚か、ビリビリと破ってしまった。
私、パステルは悲鳴をあげた。
そしたら、夫スニフに、頬を思い切り平手打ちされた。
「お前も、このダナサイト伯爵家の奥方なんだ。
落書きが裂かれたぐらいで騒ぐな。
毅然としてろ!」
床にしゃがみ込む私に、夫スニフは生唾を飛ばして説教を垂れる。
そして、身を翻して、破れた私のスケッチブックを酔いどれ客どもに見せながら、大声を張り上げた。
「俺の奥方様は、俺が夜遅く帰ってきたときには、
『お帰りなさい』
と言って、出迎えはする。
が、その後、すぐ自室に籠りきりになって、趣味だかなんだかの落書きばかりしてる。
酒を飲むときぐらい傍らにいて、お酌をしながら話し相手になってくれても良いのに。
これだったら、酒場の女の方が、まだマシだ。
少なくとも、俺の愚痴に付き合ってくれる。
お酌も上手い。
生まれながらの伯爵令嬢だからってお高くとまって、男爵上がりの夫はないがしろだ。
誰が働いて食わせてやってると思ってる!?
まったく気の利かない女だ。
根暗な女で、落書きばっかして、スケッチブックになんだかかんだか、わけのわからない絵を描いては、楽しんでいる。
ほんとに腹が立つ」
酔った客どもが、夫の盛大な「妻ディスり」を耳にして、ゲラゲラ笑う。
私は悔しかった。
唇を強く咬んだ。
(もう、この男とは、夫婦をやっていけないーー)
そう思い切った。
何人かの酔客相手にお酌し終えると、私、パステル・ダナサイト伯爵夫人は、二階に向けてバタバタと走って行く。
そして、それっきり自室に閉じ籠ってしまった。
◇◇◇
極めて下品な酒盛りがあった、三日後の夜ーー。
ついに夫スニフが、若い娘をお屋敷に連れ込んできた。
亜麻色の長い髪が目立つ、彼女の名前は、マリーという。
大商人フォマスの娘で、いまだ十八歳と若いのに、ブティックから化粧品店、宝石店と、いくつもの店舗を経営しているそうだ。
「マリーは、お前なんかより年若いが、ずっとデキる女だ。
ドレスを始めとした衣服から、化粧品、そして宝石や貴金属の装飾品まで、立派にホンモノの高額商品を売っているんだ。
お前が紙に描く落書きとは違って価値がある。
昨年には王都の一等地で店を出していて、凄い人気店になっているんだぞ。
お前の空遊びーー落書きとは違う。
稼ぎが凄いんだ」
年若いマリーも、青いドレスの裾をあげてお辞儀をした後、得意げに言う。
「奥方様。
伯爵夫人の座に胡座をかいてばかりでは、いけませんよ。
貴族夫人は家業に貢献すべきです。
ちなみに『パスダナ』というお方の名前をご存知?
我がフォマス商会で抱える有名デザイナーのお名前です。
彼がデザインした商品は、ドレスなどの衣服のみならず、化粧品も宝飾品も、裕福な貴婦人たちの間で話題になって、すべて飛ぶように売れているのです。
私も勉強して、いずれ『パスダナ』様のように、流行を生み出すようなデザイナーになってみせますわ。
奥方様のように、無駄な落書きなどせずに、ね」
私、パステルは、のぼせ上がった小娘は無視して、彼女の傍らにいる夫スニフに食い下がる。
夫婦の間で、激しく言い争った。
「稼ぎ、稼ぎってーー領地からの収入だけで十分暮らしていけるでしょう?
父が亡くなった途端、どうしちゃったの」
「うるさい!
この金喰い虫の馬鹿女!
さすがに、お前でも知っているだろうが、領地収入の大半は、鉱石採掘で得ている。
そして、危険を冒しながら、その鉱石を掘り出しているのは誰だと思っている?
俺と、現場の仲間たちじゃないか。
四つの鉱山を四人の監督官に任せているが、労働者を手配してそれぞれの鉱山から鉱石を掘らせているのは、この俺だ。
俺のおかげで鉱山経営は回ってるんだ」
「いつもご苦労様と思っています。
ですが、鉱石を掘り出すのは、労働者の方々でしょう?
彼らを手配するのも大変で、四つの鉱山を渡り歩かなければいけないのも一苦労だとわかります。
ですが、父も同様の仕事を何十年も果たしておられましたが、貴方のように怒声を張り上げ、妻子に当たるようなことは一度だってしたことはありませんでしたわ」
「ふん。旦那様は神輿に担がれていただけだったからな。
所詮、苦労を下の者に押し付けていただけだ。
当時の俺や、現場監督の連中にな!」
「貴方は自分たちばかりが苦労して、他人は楽をしていると思い過ぎです。
鉱山経営は、労働者を管理をする貴方たち現場監督だけでは成り立ちません。
鉱道の換気に気を配る職人たちや、鉱山に眠っている鉱石の採掘予想を立てて計画を練って資金を調達する者とか、採掘した鉱石を市場に流すタイミングを測る商会の方々とか、王家への鉱石採掘量の報告をする役人とか、様々な人たちがーー」
「ええい、うるさい!
部屋に籠って落書きしているだけのお前が、知ったような口を叩くな!
お前なんか、このダナサイト伯爵家から追い出してやる。
俺は稼ぎのある、有能な女が好きなんだ。
お前は出て行け。
明日までに荷物をまとめろ!」
「スニフ!
貴方は、お父様から受けた恩は、どう思っているんですか?
『娘を頼む。慈しんでやってくれ』
とお父様から頼まれたんでしょ!?」
「旦那様かーーあの人は怖かったな。
俺たち現場監督を顎でこき使っていた。
だが、もう問題ない。
アレはもう死んでるだろ?
今では、俺がダナサイト伯爵家の当主だ」
「ーーそこまで、おっしゃられるなら、わかりました。
貴方とは別れます」
「そうだ。荷物をまとめて、明日にでも出て行け!
俺は無能なお前と離縁して、この有能な女性マリーと再婚する。
お仕着せの縁組みを解消して、結婚し直すんだ」
こうして、「夫婦水入らずの口論」は終了となった。
このとき、スニフは、パステルとの夫婦関係が終わりを迎えた、と思った。
だが、違っていた。
パステルとスニフの夫婦関係は、すでに三日前、あの酒盛りの晩で、終焉を迎えていたのである。
ダナサイト伯爵家の奥方にとって、三日もあれば、無能で横柄な夫を追放する手筈を整えるには十分であった。
◇◇◇
ダナサイト伯爵家の主人スニフ・ダナサイトが、妻のパステルに向かって離縁を宣言し、荷物をまとめて出ていくように命じた、その翌日、早朝ーー。
朝から、スニフ・ダナサイト伯爵は、邸内テラスで、愛人マリーとイチャついていた。
昨晩から、マリーはスニフの寝室で泊まり込み、そのまま朝を迎えていたのだ。
マリーは、スニフの胸板に身を預け、彼の耳元でささやいた。
「私のお父様は、王太子殿下とも懇意なんです。
あの女ーーパステル様を追い出した後、王太子殿下に仲介してもらって、私たちで再婚しましょう」
マリーの父親フォマスは王宮御用達の大商人だから、シュタイン王国の次期国王エイジア王太子とも顔見知りだという。
スニフは両目を見開いて、大きくうなずき、マリーを抱き締めた。
「ありがとう、マリー。
君はほんとうに、気が利く娘だ!」
実際のところ、スニフは悩んでいた。
その場の勢いで、妻のパステルに、屋敷から出ていくよう怒鳴りつけた。
とはいえ、このダナサイト伯爵邸は彼女の生家であり、スニフの方が入婿なのだから、たとえ離婚することができても、屋敷から出ていくのは婿のスニフの方になりかねない。
そればかりか、ダナサイト伯爵家の血筋を引いているのはパステルの方なのだから、彼女が離婚するのを拒否すれば、この国の法律では、離縁すること自体が難しかった。
ところが、逆転の目が一つだけある。
我がシュタイン王国での王権は強く、王家は、貴族間の縁組に強く介入することができた。
過去の歴史においては、貴族相手に、随分無茶な縁組みを強要したり、強引に家と家との縁組みを解消させたりしてきた。
いまだ三十代にも満たない年齢でありながら、聡明との誉高いエイジア・シュタイン王太子の仲立ちさえあれば、パステルと別れて、マリーと再婚することもできよう。
「ふふふ。持つべき者は、やはり有能な妻だな!」
「あら。まだ私は妻になってないわよ。ちょっと気が早くない?」
そんなことを言い合いながら、スニフとマリーは抱き合ったり、キスしたりしていた。
すると、二人がイチャつくテラスに、侍女が血相を変えて駆け込んできた。
「大変です。
エイジア王太子殿下が、この屋敷にお見えになられました!」
スニフもマリーもビックリして、席を立つ。
エイジア王太子について、ちょうど話をしていたところだ。
とはいえーー。
「まだ根回ししていないのに、どうして……」
スニフは眉間に皺を寄せる。
嫌な予感がする。
その一方で、マリーは王太子殿下をじかに拝謁できる機会が訪れたことに興奮した。
「考えるのは後ですよ、スニフ伯爵。
まずはお出迎えしないと!」
「そ、そうだった。
俺は従者を伴って、即座に玄関に向かう。
執事は総出で応接間を整え、侍女はお茶と軽食の準備を。
マリーは急いで侍女服に着替えて、俺の傍らに侍るように」
スニフの指示を受けて、侍女とマリーはテラスから飛び出す。
スニフは慌てて玄関に走り、廊下で合流した従者と共に、エイジア王太子殿下を出迎え、そのまま応接間へと先導する。
すると、スニフにエスコートされた王太子一行よりも先に、応接間で待ち構えていた人物がいた。
私、パステル・ダナサイト伯爵夫人である。
私は、ポカンとしているスニフを無視し、その背後に顔を見せているエイジア王太子を見据えて、スカートの裾を摘み上げつつ、お辞儀をする。
「ようこそ、おいでくださいました、殿下」
パステル伯爵夫人の挨拶を受け、王太子殿下が丁寧にうなずき、応えようとする。
が、それより早く、怒鳴り声が、応接間に響き渡った。
スニフは興奮の態で、パステルに向かって、声を張り上げたのだ。
「パステル!
まだこの屋敷にいたのか!
お前とは離縁だと言っているだろう!?」
すると、部外者であるはずの王太子が、静かな、それでいて厳しさを込めた声をあげる。
「ふむ。
ダナサイト伯爵家のご夫婦が離縁するーーそうした話を耳にしたので、わざわざ、この屋敷にまで、余が来たのだよ」
事態が掴めないスニフは、目をパチクリしている。
その一方で、パステル・ダナサイト伯爵夫人は闊達に動き始める。
「まずは皆様、お座りになってください」
パステル伯爵夫人の誘導で、エイジア・シュタイン王太子殿下が奥の上座に着く。
長いテーブルの一方の側面には、夫のスニフ・ダナサイト伯爵(その少し後ろで、フォマス商会の娘マリーが、侍女服で立っている)、そして反対側に対峙する形で、妻のパステル・ダナサイト伯爵夫人が着座する。
すでに各席の前には、紅茶が用意されて湯気を立てていた。
関係者が出揃ったところで、来賓のエイジア王太子殿下が、少し紅茶を口にして舌を湿らせてから、当然とばかりに、場を仕切り始めた。
「今朝早く、政務を行う前に、余がこのダナサイト伯爵邸にまで足を運んだのは、奇妙な話を耳にしたから、その確認をするためだ。
まずは、スニフ伯爵。
其方は、奥方のパステル夫人と離縁して、その女ーー商家の娘と再婚をしたいとこのことらしいが、真実か?」
スニフとマリーは、二人して、恐る恐るうなずく。
王太子は目を細め、顎に手を当てる。
「ふむ。にわかには信じ難い申し出だがーーそれについては、余がとやかく言うよりも、強く反対する者がいる」
顎をしゃくると、応接間の扉が開き、マリーの父親が辞を低くしながら現れた。
大商人フォマスだ。
彼は王太子に向かって一礼するや、すぐさまパステルに向かって丸い顔を向け、太った体躯で跪き、両手をついて土下座した。
「こ、この度は、娘のマリーがとんだ粗相をしでかして、まことに申し訳ございません」
「お父様! どうして……」
驚いたのはマリーである。
スニフ伯爵と付き合い、密会を重ねてきたことは、家族の誰にも口外していなかった。
特に父親に、スニフとの付き合いを反対されるのを恐れていた。
なので、父親にスニフと再婚する旨を報せる機会を慎重に窺い、まずはスニフと肌を重ね合わせる仲となり、奥方のパステルを屋敷から追い払い、再婚する準備を万端に整え、既成事実を作ってから、父親に報告するつもりだった。
今、父親に知られてしまうのは、明らかに時期尚早であった。
案の定、マリーの父親フォマスは激怒し、両目に涙を浮かべながら、口髭を震わせた。
「マリーは黙っていなさい!
マリー、そしてスニフ伯爵様、貴方がたは、何もわかっておられない。
我がフォマス商会の利益の大半を、これまでパステル伯爵夫人が生み出してきておられた、という事実を!
いや、我が商会だけではない。
我が国での鉱石産出業績の過半を担っておられるのも、パステル伯爵夫人なのだ」
ここで、スニフが甲高い声で横槍を入れた。
「嘘だ。コイツは部屋に籠って落書きばかりーー」
スニフがいつも通り妻をディスろうとするのを、大商人は太った体躯を起こしつつ、大声で遮った。
「パステルの奥方様が描かれておられたのは『落書き』などでは、断じてございませんぞ!
金を生み出す、独創的なデッサン画なんです。
我が商会が販売するドレス、化粧品、宝石ーーいずれも、奥方様のデザインによって生み出されたものなんですぞ。
奥方様はいまだ学園にお通いの時分から、寛大にも、わずか二割程度の取り分で、王都の流行を牽引する先進的デザインで、我が商会を代表するドレス、宝石、化粧品を生み出し続けてきてくださった。
さらに店舗経営にも辣腕をお振るいになり、最近の王都での出店も含めて、すべての店舗設立の基本構想は奥方様が行っておられる。
立地、デザイン、資金調達ーーそのほとんどすべてが奥方様の指示によってなされているのだ。
『パスダナ』というデザイナーの名前、マリーも聞いたことがあるだろう。
アレは奥方様の、商売用の別名義だ。
伯爵夫人が直にデザイナーや店舗経営者として活躍していることが、世間に知られるのを憚られてな。
マリー、お前は、奥方様が構想した商品を並べて、奥方様が企画した店舗の管理を任されているに過ぎないのだ。
それなのにーーなんとも、恥ずかしい……」
思いもしなかった大商人による暴露を受け、スニフとマリーは身を硬直したまま動けなくなってしまった。
大商人フォマスの発言を受け、私、パステルは、扇子をパチンと閉じながらうなずく。
「いえ。
デザイナーや店舗経営に携わる際には、私、パステル・ダナサイトの名前を秘匿することは、私の強い要望でしたから、フォマスに落ち度はありません」
フォマスは再び、床に額を押し付けて叫ぶ。
「いえいえ、滅相もございません。
訊けば、今度の春の新作デザインを私どもは期待していたのに、貴重なデッサン画を無教養な者どもに破られて、捨てられたと言うではありませんか。
私は血の気が退く思いでしたぞ」
マリーの父親の怒声を耳にして、夫スニフの顔は、すっかり青褪めていた。
私、パステルは、大商人フォマスに扇子を差し向けて宣言した。
「では、フォマスさん。
私、パステル・ダナサイトは、共同経営者としての権限で命じます。
この娘ーーマリーの店長職を、今すぐ解いてください。
今後、彼女には、私がデザインした商品を販売させることも許しません。
よろしいですね。
それから、我がダナサイト伯爵領は言うに及ばず、このシュタイン王国からの追放をーー」
すると、父親のフォマスはまたもや土下座し、何度も額を地面に打ちつけた。
「国外追放は、お許しを!
これでも私の可愛い娘なので……」
パステル伯爵夫人は、パチンと扇子を閉じる。
「そうですか。仕方ありませんね。
それでは修道院へーー」
シュタイン王国では、犯罪をおかした貴婦人は修道院送りになる。
平民ながらマリーは貴婦人の犯罪者扱いとされ、これはこれでパステル伯爵夫人による温情ある処分といえた。
だが、犯罪者とされた事実に変わりはない。
「いやああああ!」
泣き叫ぶ娘を、父親も泣きながら諭す。
「仕方ない。頭を冷やせ。
それほどのことを、お前はしたんだ」
父娘が抱き合って泣くさまから目を背けて、私、パステルは、改めてエイジア王太子の方へ視線を向ける。
「この度、当館へ、殿下にわざわざ御足労をお願いいたしましたのは、他でもありません。
こちらをご覧ください」
執事に書類を運ばせ、王太子に資料を提出する。
パステル伯爵夫人は背筋を伸ばし、眼前の夫スニフを正面から弾劾した。
「我がダナサイト伯爵領内で産出したレアメタルを王宮へ提出しようとしたところ、横流しをする動きがありました。
これは、その時期と規模を示した記録です。
しかもどうやらレアメタルは隣国に流れていたようで、これは国法違反と思われます。
そこで、この横流しと隣国への流出の許可と指示を出していた者についても、おおよその見当がついております。
この紋章をご覧ください」
赤地に山が四つ重なるデザインーーダナサイト伯爵家の紋章だった。
これを使用したのは、言うまでもなく夫スニフ・ダナサイト伯爵だ。
印鑑を兼ねる指輪をした左手を、スニフは慌てて右手で覆う。
その仕草を見て、エイジア王太子は冷たい目をする。
「奥方様のご指摘が、どうやら事実のようだな」
スニフは額に無数の汗を浮かべる。
「な、なんで、これを。どうして……?」
私、パステル伯爵夫人は、扇子を広げて口許を隠す。
「そう言われても、私は自領の鉱山管理者四人と、普段から懇意にしておりますから。
彼らから、私の許に苦情が寄せられていたのですよ。
貴方が勝手にレアメタルを接収していくが、ちゃんと王宮に届けられているのか、と。
家令をはじめとして、先代からやってきた者たちは皆、私の知り合いです。
そもそも鉱石の採掘計画を立てる際には、彼ら四人と私が討議して決めておりますから、貴方が現場で働いた際に、鉱石を幾らかチョロまかしても、大体は掴めます。
レアメタルの採掘量についても、専門家と相談して、おおよそ私が決めたものですよ。
ああ、ちなみに、その鉱山管理者四人が集まって、一致して貴方を現場監督総括の役職を解任すると、昨晩遅くに、すでに決めたそうです」
私の発言を受けて、鉱山管理者四人が応接間に入室してくる。
我がダナサイト伯爵家の頼子貴族である、四人の鉱山管理者、ドンス男爵、パイ子爵 メリル男爵、ポスカ子爵が、口々に言い募る。
彼らはいずれも正装をしているが、顔や腕は汚れや傷の跡があり、その表情は眉間に縦皺を刻んだ、哀しげなものだった。
「残念だよ、スニフ。
君は先代の旦那様が亡くなられた途端、卑しく、傲慢になってしまった」
「最近、現場監督どもの横暴は目に余る」
「経営方針が、ここのところ、メチャクチャになっているではないか。
肝心の採掘労働者の数を減らしてどうする?
一人当たりの労働量が増え過ぎて、身体を壊してしまうだろうに」
「労働者相手に鞭を振るう現場監督もいるというぞ。
管理がなっていないんじゃないのか?
先代の旦那様は、そんな横暴を一度だってお許しにならなかった」
鉱山管理者からの指摘を受け、スニフは喉を詰まらせる。
少しばかり沈黙が続いた後、エイジア王太子が満を持して立ち上がった。
「スニフ・ダナサイト伯爵。
余はお前を捕まえざるを得ん。
残念だ。連れて行け」
バタンと扉が開いて、騎士団が突入してきた。
あっという間に、スニフの両腕を後ろに回し、地面に顔を押し付ける。
スニフは短躯で悶えながら、視線を私、パステルの方に向け、泣き喚いた。
「嫌だああ。助けてくれ!
ああ、パステルーー妻なんだろ、お前は!
夫がーー名誉あるダナサイト伯爵家の当主が、こんな酷い扱いになっているのを看過するのか!?
この人でなし!
お高くとまりやがって!
助けろ。
助けてくれえ!」
パステルはスニフに目を向けることなく、毅然と背筋を伸ばしたまま、瞑目していた。
そのまま、一言も言葉が発せられることはなかった。
やがて、喧騒と共に、スニフや、マリーとフォマス父娘が退室すると、静かな雰囲気が室内にもたらせれた。
パステルは侍女たちに命じて再度、お茶を出させ、エイジア王太子と一緒にカップを手にする。
「お世話をおかけいたしました、殿下」
エイジア・シュタイン王太子は、カップを皿に戻しつつ、ゆっくりと首を横に振る。
「いや、こちらこそ、お詫びしよう。
レアメタルの提供が異様に少なくなった事実を知りながら、監査を入れていなかった。
王家は怠慢の誹りを免れまい。
ということで、パステル・ダナサイト伯爵夫人。
改めて余から父王陛下にお願いして、其方をダナサイト伯爵家の当主にしよう。
器量のない男には、鉱山を所有する貴族家の当主は務まらぬーーそれだけのことだ。
其方の領地で産出される鉱石は、王国にとって重要な資源ゆえ、其方にはこれからも抜かりなく管理していただきたい。
そして、アレよりはもっと良い婿を、余に紹介させてくれ。
できれば余自身がお相手として名乗りあげたいところだが、王太子ともなると、そういうわけにはいかぬ。残念だ」
エイジア王太子が片目を瞑って語り終えると、私にも自然と笑みがこぼれた。
「ご冗談を。お心だけで十分ですわ。
これでやっと、我が家に静かな時間を取り戻せます」
私、パステルの、本心からの言葉であった。
(了)
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ちなみに、後日譚ーー。
一年を経ずして、「パスダナ」こと、パステル・ダナサイト伯爵(元伯爵夫人)のデザインしたドレスや化粧品、宝石などが皆ブランド化し、フォマス商会が精力的に働いたこともあって、広く諸外国にまで販売網を広げていった。
数年もすると、シュタイン王国を代表する輸出産業の一角にまで成長することだろう。
そして、エイジア王太子が、
「アレよりはもっと良い婿を、余に紹介させてくれ」
と約束した通り、パステル伯爵に、新たな出会いがもたらされた。
この頃、王宮に勤める近衛騎士団のマントも、新たにパステル伯爵のデザインで新調され、時代を一新するものとして、マントのデザインが評判を呼んでいた。
すると、そのデザインを大層気に入った若者が、パステルの婿に立候補したのだ。
近衛騎士団の団長であり、お洒落好きの第三王子トリス・シュタインーー彼が、兄であるエイジア王太子の紹介を受けた後に、パステル・ダナサイト伯爵にプロポーズした。
その日の会食での会話は、じつに軽快なものだった。
「以前から、憧れておりました」
と、三歳年下のトリス王子がパステル伯爵に告白すると、
「私に? それともデザインに?」
と、パステル伯爵は問い返す。
すると、間髪入れず、トリス王子は、
「もちろん、両方ですよ。
他にも、宝石や装飾品のデザインにも、お気に入りが多々あります」
と声をあげる。
あまりに素直な答えに、思わずパステル伯爵は満面に笑みを湛えた。
「そこは
『もちろん、貴女ご自身です』
とでも答えておけば、よろしいのに。
でも、私のセンスをおわかりなっていただけて、嬉しいわ」
かくして、元夫スニフと離縁してから三年ーー。
パステル・ダナサイト伯爵(元伯爵夫人)は、トリス王子を婿に迎え入れた。
(ちなみに彼は結婚後もダナサイト伯爵家の当主となることを拒み、「トリス元王子」と呼称され続けた。やがては「トリス王弟殿下」と称されることになる)
自身もデザインセンスがあるトリスは、パステル伯爵とアイデアを出し合って、ブランド商品の開発を続け、鉱石採掘業も順調に進み、ダナサイト伯爵家は、いずれ侯爵か公爵へと陞爵するのではないか、と噂されるほどの繁栄ぶりを示した。
一方で、元夫スニフは、レアメタルを横流しして仮想敵国である隣国から利益を得ていたとして、禁錮三年、加えて爵位を剥奪されて奴隷堕ちとなり、鉱山労働奴隷となった。
禁固刑の年数は少ないが、無期限労働を強いられる労働奴隷に身分落ちした身では、二度と「表舞台」に立てそうもなかった。
元夫グループの現場監督たちも同様である。
酒盛りしていた連中は皆、スニフと共に鉱山労働奴隷に転落したのだ。
片足に、鉄球を括り付けた鎖を嵌められ、行動を坑道内に制限された。
「アンタのせいだ」と元現場監督たちは、スニフを怨む。
同じく労働奴隷に格下げになった、鉱山の現場監督たちが、地面を蹴り上げながら怨嗟の声をあげる。
「何が『金喰い虫』だ。
奥方様は凄い人だったじゃねーか」
「『落書き』だなんて言っておきながら、とんでもなく大切なデザイン画だったとか。
俺、何もわからず、奥方様の大事なデッサン画を破っちゃったよ」
「旦那様の娘さんに、俺たちはなんてことを……」
「奥方様に無礼を働くなんて、俺はやりたくなかった。
アンタがやれって言ったからーー」
スニフは周りから蔑まれ続け、始終、身を縮こまらせていた。
やがて、彼らの鉄製首輪に付けられた鎖が引っ張られる。
「痛い、痛い!」
「無闇に引っ張るな!」
今や労働奴隷となった元現場監督たちは、口々に喚く。
が、抵抗したところで、無駄だった。
以前は冷遇していた労働者あがりの現場監督に、尻を棒で叩かれる。
「うるせえ。
お前らはろくにツルハシを振るったことがないのだから、一から教えなきゃ使い物にならねえんだ。
これからは、厳しくしないとな!」
スニフたち現場監督たちは皆、こき使われていた者たちに、こき使われる身分になってしまった。
しかも、スニフにとっては「この金喰い虫の馬鹿女!」と罵っていた女性の領地にある鉱山で一生働き続けることになったのである。
一方、修道院送りとなっていた商人の娘マリーは、早朝から深夜までの労務を強いられ続けて、三年後、ようやく俗世に出ることができた。
が、国境を守備する任務に就いている、バイク・デダマス辺境伯の許に嫁ぐことが条件であった。
ちなみに、蛮族と隣接する西方辺境では、紛争ばかりで、パーティーどころではない。
「昔の生活が恋しい。
馬鹿なことをした……」
と涙を流し、マリーは反省することしきりらしい。
とはいえ、平民から貴族夫人(といっても第三夫人)に昇格しているだけで満足すべきなうえに、現状は動かし難い。
国境防衛は大切なことだし、夫のバイク・デダマス辺境伯は戦闘狂である。
バイクは蛮族征伐で血濡れた腕で、何度もマリーを抱いた。
バイク・デダマス辺境伯がマリーを娶ったのは、戦費調達をフォマス商会に担わせるためであったが、思いの外、マリーが可愛い女であったから、喜んでいるという。
そういった噂を、王都でフォマスを介して耳にしたパステル・ダナサイト伯爵(元伯爵夫人)は、
「『貴族夫人は家業に貢献すべきです』
と、マリー自身が言っていましたからね。
彼女も本望でしょう」
と、新しいドレスのデザインを描きながら、微笑んでいたという。
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『夫が、年下の公爵夫人とイチャつくのをやめない。注意しても、「嫉妬するなよ」と嘲笑い〈モテ男〉を気取る始末。もう許せない。「遊びだった。ほんとうに愛してるのはおまえだけ」と泣きながら言っても、もう遅い!』
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